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4.
しおりを挟むケイは浮かない表情だ。
中学の頃、ケイは陸上部のエースだった。
3年の夏、大きな大会に出るから応援に来て欲しいと言われていたが、途中入部した蓮にタイムを越され脱落した。
だからきっと、ケイにとって蓮は、あんまり良い印象が無いんだろう。
しかし、ヘンという言い方には違和感がある。
「色々あって、僕の家に居候することになった」
カシャン。
ケイの肘に当たった銀皿が音を鳴らす。
「·····一緒に住むって?」
「うん」
言いながら、また憂鬱な気分になってくる。
義弟として、蓮が好きだった。しかし「あの頃から」は、少し違った。
「それの何が悩みなんだ?ずっといる訳じゃないんだろ?」
「そうだけどさ」
ケイには言えない。
「嬉しくないのか?」
ジョッキを飲み干したケイが問う。
「離れた時は数日塞ぎ込んでただろ。ほら、○○の曲·····アホみたいに垂れ流して───俺のベット涙でぐちゃぐちゃにして」
親に「おねしょ」って馬鹿にされたんだと、彼は呆れたように笑った。
「··········」
夏樹は気まずくなって口元を拭った。
「おねしょ」じゃない。
鼻水もたらして固まってたから、彼の母親には少しの間不振な目で見られていた。
さて置き、聞いていた曲まで覚えていたとは。
「·····ケイって、記憶力いいよなぁ·····」
「嫌でも覚えてるよ」
あの時の自分がウザかったのは認めよう。
かなり遅れたが、今日はお詫びとして奢ってやってもいい。
家に帰れば蓮がいるのは変わらないんだ。
ケイの真似をしてビールを飲み干す。新しい酒を頼んで、その後はくだらない話に花を咲かせた。
結局、飲み代を払うことは無かった。
『──兄さん、ここから出ていかないで』
蓮の周りには、いつでも沢山の人がいた。
しかし彼の意識は、大勢の中の誰にも止まらなかった。
爽やかな好少年。
悪く言えば、掴みどころのない子供。
面倒がかからなくて良い。義父がそう言っていたのを、今でも覚えている。
そして、死んでいた彼の感情をつき動かしたのは自分だったと自負している。
『誰もいらない』
目が覚めたばかりのような澄んだ瞳が、暗い部屋の中で輝いていた。
『兄さんがいてくれればいいから』
初めてこっちを見たような顔だった。
嬉しかった。
歪な雰囲気が恐ろしいのと同時に、可愛い義弟を受け止めてやりたいと、幼いながらに思った。
そして、少しの優越感。
それが、間違いの始まりだった。
見風蓮は、見目麗しい皮を被った、不気味な子供だった。
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