【完結】高嶺のバスケ部主将(ヤンデレ後輩&不良後輩×世話焼き先輩)

亜依流.@.@

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第五章

《第29話》駆け引き

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「まず、1on1で相手を抜くために一番最初にするといい事って何だと思う?」


アリーナに響く声を思い出す。
床にしゃがみこんでいるのは、弄ばれるだけ弄ばれ、10点を奪われた、半年前の自分だ。


「はあ·····1番最初?」


1番最初ってなんだ。
そんなんスピードで行ってフェイクかけて抜くだけだろ。
脳内で思いつつ、黙っておく。


「ミドルシュートだ」

「はぁ?」


言ってること、矛盾してないっすか。そう返すが、姫宮は得意げに笑っている。
おかしな先輩だ。


「あほ、印象操作だ。もちろんこれはひとつの例」


よく透った、キラキラと光る声で、軽快に貶される。


「例えばな、ディフェンスにミドルシュートがあるっつー選択肢をまず最初に印象付ける。より優位に立つことができる」


ディフェンスにとって最も脅威になるのは、 ” シュートを打たれて得点を量産される “ ってことなんだ、と。

丁寧に説明してくれるのはありがた迷惑だ。
それに、俺は「抜くためには」と質問されたのであって、「得点を稼ぐためには、」なんてことは聞かれていない。


「いや、シュート打つんじゃなくてディフェンスの仕方を聞かれたんすけど」


先輩が聞いたんすよ、と、舐め腐ったふうに言う半年前の自分は、不貞腐れていて、そして自分のプライドを守るのに必死だった。
彼はちょっと嫌そうな顔をした。


「お前、ほんとに成績学年トップかよ。視野狭すぎね?」


また貶された。


「すぐ点を取ろうとすんな。あくまで「抜く」んだ。このミドルは入んなくてもいーんだよ」


抜くどころか肝心のシュートさえ入らなくていいと言い出す始末。本当に、訳が分からない。


「だからな?」


近くにしゃがみこんできた彼に、驚いて後ろへ引き下がる。

距離感が近い。
何も、こんなに近づくことは無いだろ。
しかし姫宮は、たじろぐこっちの身など全く気にしていないようだった。


「『このオフェンスはミドルシュートからのゴールも狙ってる』って思わせんの。それだけで、相手は、守らなきゃいけないゾーンが広がる」


んで、と、続ける姫宮の身体は、先程走り回っていたせいか、ほんのり上気して見える。
顔を盗み見ると、頬が赤い。唇までほんのり膨らんでいる気がして、慌てて目を逸らす。


「シュートが入るからディフェンスは間合いを詰めてくる。ミドルシュートが入るから、シュートフェイクだけで簡単にディフェンスを飛ばして抜くことができる。相手が飛べばスピードが無くても抜けるだろ?」


あとお前はがむしゃらすぎるから、もっとリズミカルに動くんだ。その方が見てても楽しいしかっこいいぜ、なんて楽しそうに言う姫宮の吐息が頬にかかる。
更衣月は軽く叫びかけ、口を閉じた。

不意に立ち上がった姫宮が、休めの体制で停止する。
心臓をなでおろした更衣月の前で、しなやかな足が動き出す。


「前足を攻めて、前足を後ろに下げたら逆を抜く、反応がなかったら前足側を抜く。前足を下げずに横にズレたら逆を抜く、とか。まあ見た方が分かりやすいだろ」


初めて彼の試合を見た時、視線を奪っていった動きに似ていた。
あの時は、この足が野生の動物のように素早く、しなやかに暖急していた。
まるで、コート上で泳ぐイルカみたいだった。

無意識に感情が高ぶる。
そして、取り繕うことも忘れ、見入っていた。
止まってパスと見せかけてドライブ、ゆっくりから速く、下がると見せかけて前へ、アタックと見せかけてシュート、レッグスルーをして止まると見せかけてドライブ。
美しい身のこなしに、更衣月は完全に魅入っていた。


「んじゃもっかいするか」


木更月は高鳴る鼓動を隠しつつ、頷く。
待ち切れず立ち上がる。


「あ、それともう1つ」


思い出したように言って、彼は、再び更衣月に近付いてきた。


「な、んすか」


視線が絡み合う。
濃密な黒目の潤いに、いっそう大きな動悸が訪れる。


「1on1で重要なのは駆け引きだ。テクニックの引き出しを増やして、相手によって上手く活用しろ」


至近距離で話されると、秘密事を教えられているような気分になる。

目眩すら感じる。
これが無自覚というのなら、罪だ。


「賭け引きなしに、ただ闇雲に突っ込んでくるオフェンスってどう思う?」

「そ、れは」


わかんないっす、と、呟いた声は、迷子の子供みたいだった。


「馬鹿、超つまんねぇんだよ」


言い返せない。
まさか、このままやられっぱなしな訳ないだろ?なぁ、と、挑発するような笑みが言う。
怪しいときめきは増す一方だ。

また彼の背中を追いかけた。
















結果として、半年前の自分は負けた。
そして今回も負けた。

彼は手加減をしなかった。
否、もしかしたらしていたのかもしれない。それでも、1点も取れなかった。






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