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第五章

《第27話》シンデレラ

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「·····──め、······──き姫····」


遠くの方から、声が聞こえる。

まだ寝かせろ。なんて、自分が寝惚けながら言っている。


「───あなたを探していたのです、みずき姫!」

「うわっ」


飛び起きる。
目の前に、男らしい色気を醸し出す男がいた。


「·····庵野?」


まるで、少女漫画から飛び出してきたかのような·····───いや、実際彼は、白いタキシードに身を包んでいる。
佇まいは、どこかの王子様みたいだ。
後光が差している。


「は?!」


そして、姫宮は自分の姿を見下ろした。
真っ白なシルクの手袋に、淡い水色のドレスの端が揺れている。
何の罰ゲームだ?


「このガラスの靴がピッタリ合う姫を探していたのです」

「はぁ·····ガラスの靴·····シンデレラ??」


目の前の破壊級イケメンが何を言っているのかわからず、思い当たる物語の題名をあげる。


「みずき姫、やっと見つけました。私の愛しい人·····」


どうやらこちらの発言はガン無視するようだ。
手を摂られて、甲へ口付けを落とされる。


「もう逃がしません。あなたを王宮へ連れて帰ります」


え、断定ですか?

監禁でもされるのだろうか。
手を振り払う。


「やだよ」


慌てて拒否する。
が、やはりこの世界に姫宮の意志などは関係ないらしい。
いつの間にか、足にはガラスの靴がはめられているし、少し先には立派な馬車が待ち構えている。


「待て」


いくらかボソリとした声が加わる。
現れたのは、まさに黒馬に乗った王子様···───いや、ただの王子の格好をした更衣月だ。

偉く似合ったコスプレ姿の後輩2人が睨み合う。が、とりあえず今は、庵野の独走を止めた更衣月が味方のようだ。
その調子だと、更衣月に親指を立てる。


「俺の時期婚約者に手を出すな」

「んんっ?」


すっと親指を下げる。
何かおかしい。
こいつ今なんつった?


「え、誰が誰の時期?婚約者?なの?」

「それは·····」


彼は一度言い淀んでから、先程より小さな声で言う。


「みずき姫が、俺の」


いや、何照れてんだよ。


「俺がお前の時期婚約者」

「っス」


てか時期って何?
まだ婚約結んだ訳では無いけど結ぶ前提なの?了承されてないのに時期婚約者とかそれっぽいこと言っちゃってるってこと?怖。

頭の中で突っ込みまくるが、目の前の更衣月は真面目だ。


「みずき姫、この男の言うことを信じてはなりません」


更衣月の肩を押し、姫宮の前へ出てきたのは庵野。
そりゃそうだろうよ。


「俺とみずき姫は、運命の相手なのですから·····俺以外、ありえないでしょう?」


それは違う。
ね?と、首を傾げ微笑む庵野。
顔面がひきつる俺。

もうだめだ。薄々気づいていたが、こいつは地雷系ヤンデレだ。
最悪こ○される。


「みずき姫!」


ガっ、と、強く肩を掴まれる。
姫宮ははっとして更衣月を見た。


「俺と、勝負してください。俺が勝ったら·····──」


段々と、視界がぼやけてゆく。
目の前の2人が遠くなり、肝心なところが聞こえなかった。


「は?!勝ったら、なんだよ?おい、ちょっ·····」


























「待てやコラ!」


勢いよく飛び起きた姫宮は、そのまま後頭部を何かにぶつける。


「いってぇ·····」

「寝起き早々情熱的な愛情表現ありがと、みずきくん」


声のした方に目をやる。

前の席に逆向きで腰かけた松川が、顎を抑えていた。

どうやら、机に突っ伏して寝ていた自分が頭をぶつけたのは、松川のそこだったらしい。


「わり」


短く謝ると、いやとんでもない光栄ですよとふざけた返答が来る。
悪い所は打っていないようだ。


「てか、昼休み中ずっと寝てたね。起こしてもなんか唸ってて起きなかったし·····ストレスでも溜まってんの?」

「まじ?」


時計を見る。









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