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第二章
《第7話》嫌がらせ?
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母親の啜り泣く声と、父親の咆哮。
立て続けに、何かを殴り付けるような鈍音がする。
薄暗い部屋には酒臭さと煙草の匂いが充満していた。
壁には所々、乾いて赤黒くなった血痕があった。
隅で、少年が膝を抱えている。
震える手で両耳を抑え、ひたすらにこの地獄を耐える日々だ。
もう数日間、まともに食事を摂っていない。
今にもなりそうな腹の虫を殺すように呼吸を止め、この場から己の存在を消す。
「何だ、その目は」
母へ向かっていた男の意識がこちらへ向けられる。
次はまた、自分の番だ。
与えられたのは、永遠に続くような拷問だった。
──────────────
午前七時半。
姫宮は遅刻ギリギリの時間に起床し、学校へ向かった。
大股で飛ぶように走る。
皆勤賞を無駄にするわけにはいかない。
昨日の出来事のせいで、時間を忘れていた。
昨夕、部室を出たあと、姫宮はネクタイを締め直すのさえ忘れて家に走り帰った。
庵野の入部歓迎会には勿論行けていないし、欠席の連絡さえしていない。
スマホの通知を確認すれば、案の定同級生や後輩から連絡が殺到していた。
副部長の荒井からは「庵野がお前の事で気が気じゃないっぽい」と、ふざけたメッセージが来ている。
遅刻は免れそうだ。
姫宮は部員たちのメッセージを流し目に確認し、深くため息をついた。
歓迎会をすっぽかし、連絡のひとつも入れない。
部長でありながら、無責任な対応をしてしまった。
昼休みにでも庵野に謝りにいかなければ。
それもこれも、全てはあの無愛想な後輩のせいだ。
横断歩道を二段飛ばしに進みながら、傷ついたような表情を見せ、去っていった更衣月を思い出す。
同性に性的な目で見られる事や恋愛対象として好かれることは、姫宮にとって珍しいことではなかった。
幼少期から経験がある。
あんな事があった次の日にこうして平静でいられるのも、今までの経験があってこそだ。
しかし更衣月は、今までとは少し違っていた。
自分よりも太い腕に手加減せず押さえつけられた感覚を、未だ鮮明に覚えている。
『アンタが悪いんすよ』
『···アンタのせいで、俺がどんだけ苦しんでるかも、知らないで』
更衣月の言葉を思い出すほど、疑問は深まるばかりだ。
どうやら、彼がキスをした理由は好意からではなく、どちらかというと憎しみに近いらしい。
彼に対する自分の言動を振り返ってみる。
部活に来なければしつこく追い回し、鬼連絡をする。返事がなければしつこく名前を呼び、肩や背中をこずいたりもした。
うん、やはり恨まれていた可能性が限りなく高い。
嫌がらせとはいえ、嫌いな奴にキスをするなんて、彼は相当ひねくれものだ。
「さて、どうするかな·····」
1人悶々と考えながら学校の門をくぐる。
「姫宮~」
おはよ、と通りすがりに声をかけてくる同級生達へ適当に返事をしつつ、一度踏んづけた上履きの踵をしっかり履く。
少し走ってきたせいか、長袖のシャツが鬱陶しい。袖をまくりながら曲がった廊下の先は、始業前にしては大分賑やかだった。
デジャヴュだ。
訝しげに眉を寄せた姫宮は、暫くせずに原因をつきとめた。
「うわ、誰あのイケメン」
「え、知らないの?2年の転校生だよ」
「身長高っ·····」
「超イケメン」
話題の渦中にいたのは、教室の前に佇む庵野。
他の3年生に絡まれたり声をかけられたり遠巻きに囁かれたりしながら、彼は誰かを待っているようだ。
そしてその"誰か"が自分であるということは、安易に理解することが出来た。
「姫宮先輩」
爽やかな声が名前を呼ぶ。
姫宮は、あえて今彼に気づいたような顔をしてみせた。
本当は自分から出向くべきだったが、朝から待ち伏せされていたのなら仕方が無い。
「庵野、」
昨日はごめん、そう続こうとした言葉は、さっさとこちらへ近づいてきた庵野に遮られる。
「良かった。ずっと心配していました。何かあったのかと····」
「?」
予想外な言葉に、姫宮は瞬きを繰り返した。
「やはり、昨日は俺も一緒に残るべきでした」
美しい顔立ちが、約束をすっぽかした理由も聞かず見当違いなことを言う。
「いや」
姫宮は慌てて言葉を挟んだ。
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