5 / 5
5.僕のもの
しおりを挟む告げられた言葉に、光は嫌な予感を取り消せなかった。
「話すことなんかない」
振り払おうとした腕はビクともしない。
「あるよ、それも沢山」。そう言いながら相手がうかべたのは、嘲笑とは少し違う。
心から嬉しそうな、しかし追い詰められたような、そんな不気味な笑みだ。
「ハルヒは僕のためなら、どんな事もするって」
光の額を、冷たい汗が流れていった。
「·····は·····?」
「僕を愛してるって。僕がヒカルさんと別れて欲しいと言えば別れるって。僕の言いなりだってさ」
並べられたセリフの数々に言葉を失う。
内容は予想よりもはるかに上をゆくものだった。
反論や、或いは怒りさえ湧き上がらない。
こんなことを伝えるために、深夜まで待ち伏せしていたのか?
「この·····」
相手は嬉々として繋いだ手を握りしめている。
こっちはどんな顔をしていただろうか?今、顔を見られたくはない。きっと相手を喜ばせるに決まっている。
俯くが、覗き込んできた瞳は視線を絡めて離さない。
目が合うと、相手はなぜか、はっと息をのみこんだ。
それは、ショックを受けていると形容するにふさわしい様子だった。
「そんな顔をしないで、ヒカルさんを傷つけたいわけじゃないんだ·····」
ええと、ああ、どうしよう、続きがあるんだよ。
こちらを宥めるようにあたふたする腕は、最終的に、恐ろしく優しい手付きで肩を撫でる。
「だから、一生君だけを愛するよう命令することも出来る」
彼の言葉を理解するのに数秒かかった。
同じ言葉を話しているのに、まるで違う言語みたいに頭に入ってこない。
多分、彼を別の生き物のような目で見ていた。
「僕のものになってよヒカルさん」
「··········は··········」
「そうしたらハルヒをあげる。あの日、初めて会った日から、僕はヒカルさんが欲しくて───」
長いまつ毛が街頭の下でキラキラ光っている。
飢えた男の目だ。瞳孔には自分だけが映っていた。
飛び出たのは右手の拳。
思い切り力を入れたのに、体がよろけて言うことを聞かない。驚いた相手を置いて、光は深夜の町を駆け出した。
5
お気に入りに追加
98
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
俺が総受けって何かの間違いですよね?
彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。
17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。
ここで俺は青春と愛情を感じてみたい!
ひっそりと平和な日常を送ります。
待って!俺ってモブだよね…??
女神様が言ってた話では…
このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!?
俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!!
平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣)
女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね?
モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
どんな展開になるのか楽しみです!
ありがとうございます😊