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4.待ち人
しおりを挟むすぐにでも恋人を叩き起して、安心できる答えを聞くことなんか、この頃はとうにできなくなっていたのだ。
翌日は驚くほど穏やかな時間が過ぎていった。
昨日の影響か、朝食は春陽が準備した。食材を無駄使いされるのは困るが、せっかく作ってくれたから口にはしなかった。
「今日、何時上がり?迎えに行くよ」
春陽の提案は断った。
廃棄の食材を漁っているところなど見られたくないからだ。こういうことを言ったら、裕福な家柄だからプライドが高いのだなんて思われそうだが。
「行ってきます」
出かける前に軽い抱擁とフレンチ・キス。
若くてよそ者だから、相変わらず同じ工場で働くホームレス達には煙たがられる。
謎の脱力感と、夢の中をさ迷うような、映画を眺めているような気分だ。
穏やかな時間とは少し違うことに気がつく。
かえって、嫉妬や不安なんかよりも楽でよかったのかもしれない。
薄暗くなった仕事場の清掃を終わらせ、向かったのは廃却炉だった。
今日も巣に餌を持って帰るのだ。
コレは作ってから随分たっているし、コッチのはネズミが封を開けたあとがあるからダメ。しばらく
漁って、中身は崩れているが食べられそうなのを見つける。
そこがほつれたバッグに詰めて、片手間に消灯。
外は霧がかかって普段よりも視界が悪い。
早く帰ることだけを目的として駆け出した光は、路地裏から飛び出してきた人影に気が付かなかった。
「·····!」
ぶつかってしまった相手は細身に見えたが、こちらを受け止めた身体は以外にも硬い。
「すみませ·····」
自分と同じくらいの身長。おかげで、真正面に向き直ってすぐ、光は謝罪を忘れた。
そこにいたのは、"皮肉にも"見知った相手だった。
「こんばんは、ヒカルさん」
「·····愛斗·····」
かなり強く突進してきましたね、大丈夫。そう聞きながらこちらを一瞥もニ瞥もする愛斗に呆然とし、光は慌てて後ろへ引き下がった。
無言のまま立ち去ろうとした光の腕は、見た目よりも硬く迷いのない手に引き止められた。
「ヒカルさんを待ってたんだよ」
「·····?」
光は今度こそ顔をしかめた。
何か変だ。否、何から何まで変だ。
例えば、こちらを案じる、馴れ馴れしい言葉。食い入るように見つめてくる双眸に、腕を強く握る男の握力。
見た目は愛斗だが、今の彼は別人のようにおかしい。
なぜなら普段の彼は、こっちには興味もなく、ただ春陽だけを───。
「話したいことがあって。·····まぁ、もうなんとなくは分かってるだろうけと」
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