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3.恋人と寝言
しおりを挟む逃げ出したばかり、あてもなく、さっき見た浮浪者達のように道路の端にうずくまっていた時のことだ。
店先で客を見送って、ふと、石ころを見るようにこちらを見下ろした目。露出の多い派手な服を着た少年が近づいてきて、春陽の顔をじっと眺め、欲望の籠った眼差しを微笑ませた。
愛斗との出会いは、今もはっきりと覚えている。
「·····さっきのこと、悪かった」
広い背中が言った。
頬をぶったことに対してなのか、弁解の難しい発言に対してなのか、定かでは無い。
しかし、自分よりもずっと頑丈な背が頼りなく見えて、切なくてたまらなくなる。
「ううん····こっちこそ」
「ヒカル」
「!」
彼が半身を起こすと、闇はさらに濃くなった。
強くまぶたを閉じる。優しく触れた唇が頬をなぞり、上唇にリップ音を落とす。
まだスキンシップに慣れない。
「愛してる、ヒカル·····」
緊張して固くなった唇は、解くような口付けに絆されていった。
「·····ン·····ッ」
ビクリと背が浮き上がる。
彼の手が、シャツの中へ忍び込んだのだ。
「ま·····っ····今日は疲れてるし·····──ぁ·····ッ」
「明日は午前が休みなんだから·····いいだろ?」
甘えるように求められれば、拒めるはずなんてない。
重い身体を揺さぶられ、刹那の快楽を得る。2回戦目を迫られた時は首を振ってしまった。彼はしばらくごねたあと諦めて、水をくんできてくれた。
「愛してるよ、ヒカル」
ムスッとしていたら、大きな手が優しく頭を撫でた。
まだ足りない。もっと甘やかされたくて胴体を抱きしめる。
「可愛いヤツめ」
甘い笑い声を聞きながら、少しずつ視界がぼやけてくる。
少しまぶたを閉じた。
次に目を開けた時、すぐ目の前に、目を閉じた春陽がいた。
なんだか目が覚めてしまった。
じっと相手を眺めてみる。
気持ちよさそうに眠っている。
悪戯心で、鼻の先をくすぐってみた。
「ん·····マナ·····」
「··········?」
指先はピタリと止まる。
彼はううんと唸って、また規則正しい寝息を立て始めた。
(·····マナ·····?)
マナ。
時間にすれば数秒、氷の中に閉じ込められたような痛みを味わった。
馬鹿では無いから、すぐに思い当たる節があった。
(寝ぼけて、言っただけだ)
そうに決まっている。意味なんてない。
勘違いを振り切り、薄い羽毛を引き上げる。
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