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2.半地下
しおりを挟む白可愛斗。
本名か原子名かは知らないが、ゲイ専門風俗店人気No.1の最年少男娼だ。
駆け落ちし路頭に迷っていた頃、この辺りのスラム街に詳しい愛斗が此処を教えてくれた。ちょうど住み着いていた浮浪者が車に轢かれて死んだのだと。
「俺が帰ってくる前に追い出す約束だった」
好きになれないのには理由がある。
言い返すと、春陽は少し厳しい顔をした。
「あいつの事情を知ってるだろ?ここしか居場所がないんだ」
「知ってるよ。媚び売って売春をしてる可哀想な奴ってこと」
熱弁された不幸話にすっかり同情しているのだ。
言い終わるのと、頬を叩かれるのは同時だった。
手に抱えていた弁当が降下し、ぐしゃりと音を鳴らす。
それを見下ろし、春陽は「今のお前と愛斗は対等だ」と言った。
「お前は昔からそうだったよな。下のやつらを見下して····裕福な家に生まれたことがそんなに偉いのか?甘やかされて育ったお前と違って、愛斗は体を張って、強く生きてるんだ」
言葉の意味を理解するのに数秒かかった。
その間、出会ったばかりの頃、ひとりで良く頑張っていると、初めて頭を撫でられたのを思い出していた。
「違う····俺は見下してなんか····」
「自覚がないなら、尚更良くないぞ」
机の上に、駅前の弁当屋の袋があった。
使い捨ての箸が二膳とび出ている。急いで帰る必要も、廃棄を漁る必要もなかったのだ。
体は鉛のように重たい。
高台のシングルベットに入り込む頃、怒りや嫉妬は不安と寂しさに変わっていた。
同じベットで眠る背中を眺めた。
あと数日で18歳。春陽と出会って、もうすぐ5年が経つ。
光が齢13の頃、春陽は馬小屋の世話係として穂村本邸にやってきた。
年の差は4つ。
幼くして完璧を強いられ、15からは大人の仲間入り。己を殺して背伸びをする光に、彼はいつでも優しかった。
春陽の前でだけ、弱くて年相応な姿を見せることが出来た。
長らく片思いをしていた。
思いを伝えられるはずがない。その先に待つのは終わりだけだ。
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一緒に逃げようと、春陽が言ったのだ。
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