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〖第五十一話〗
しおりを挟む「くだらない用事で大切な時間を削らなければいけなくなりました」
ネロへ近づいたステファンは、しかし、1度立ちどまる。
「!!」
伸びてきた手が、背へ隠していたペーパーカッターを抜き取った。
「こんな物持ったら危ないよ」
言いながら、視線はネロの背後へ注がれている。
彼が見ているのはベットの柱だ。
バレた。
「この柱は、これではとても切れませんよ。中央に鉄のパイプが入ってるし…」
長い指が、ネロの指の隙間に侵入してゆく。
「こんなに非力じゃ、先にこっちが駄目になる」
勘のいい彼が、気づかないわけが無い。
ネロはこれから与えられる痛みに怯え、震え出した。
しかし、待っていたのは、優しい抱擁だった。
「1人にされて、心細かったんだね」
なだめるように言った彼は、ネロの体を持ち上げ、自身の膝の上へと座らせる。
素直に膝の上にまたがる。ステファンはさっきよりも強く、ネロを抱きしめた。
最早、裸を見られることに恥じらいは無くなっていた。
「だけど、次『こんなこと』したら」
彼の声が半音低くなる。
こんなこと、という言葉は、確かに逃亡を指していた。
「驚いて·····酷いことをしてしまうかも」
「·····あっ」
耳たぶを甘噛みされる。
「ひ、ひどいこと·····」
嫌だ。
怖い。
これじゃ、逃げるなんて無理だ。
「今、ネロとしたいな·····」
「···へ·····!?ま····っ·····ん·····っ」
まって、と開いた口は、ステファンの唇で塞がれ、長い舌で舐め回された。
突然尻に伸びた指は、遊ぶように蕾を擦り、やがてゆっくりと侵入してくる。
彼の指は、有り得ないほど気持ちがいい。
わざとイイトコロを掠めながら、何度も奥を撫でられる。ネロは堪らなくなって腰を揺らした。
ネロの体が赤らんでゆくのを眺めながら、ステファンはそっと吐息を漏らした。
昨日散々抱いたせいか、中はすぐに女性器のようにキュンキュンと反応しはじめる。
「ネロのナカ、いつもより熱いよ」
「ゃ、ん·····っ♡」
言わないで、と、涙混じりの声が言う。
恥じらいで抑えるも漏れてしまう喘ぎや、怯える表情さえ愛おしい。
「ネロ·····気持ちいい?」
少し激しくかき混ぜると、我慢汁を含ませた孔が、くちゅりと音を漏らす。
「んぅ·····♡きもち·····っ♡」
ネロは思わず呟いた。
「!」
固いものが尻に押し付けられる。
昨日、散々このナカを狂わせた凶器だった。
「入れてもいい?」
「あっ·····♡や·····だめ·····っ」
嫌?、と耳元に問いかけられるが、長い指が内側で遊ぶせいで、返事さえままならない。
「入れるよ」
そう言うや否や、熱い棒が内壁を押し広げてゆく。
「あぁぁぁ·····♡~~~っ♡♡」
ゆっくりと入ってきたものは最後、ズプ、と最奥まで押し込まれた。
じっと差し込まれているだけで、イってしまいそうだ。
惚けてきた頭では、言葉が浮かばない。ネロは言葉にならない声を上げた。
ゆらゆらと腰をゆさぶられる。
「ネロ·····俺の、気持ちいい?」
「は、ぁ♡わかんっ·····な、♡」
「本当に?」
「あぁっ♡♡」
押し付けられたてっぺんが、ネロの直湯を刺激する。
ネロはステファンの背にしがみついた。
「可愛い」
腰を両手で掴まれる。
持ち上げられたかと思うと、ゆっくりと下へ下ろされてゆく。
「あぁ♡はぁ·····ぁ·····~~~っ♡」
何度か上下に浮いた身体が、激しく痙攣する。ネロの陰茎から飛び出した白が、たくましい筋肉を汚した。
ステファンは下唇を舐めた。
角度を変えて何度もキスを落とされた。
その後は背後から激しく奥を突かれ、更に正常位で優しく行為を続けられた。
激しく執拗な行為のあとも、ステファンがネロを腕の中から逃す兆しはなかった。
「ステファン様·····」
ネロは、彼がそうする理由がわからなかった。
とろけそうなほど優しい瞳がこちらを見つめ、頬を撫でる。
「どうしたの?」
ネロは小さく首を振った。
ステファンに疑問を持つ自分自体、おかしい。
彼は、自分を辱めて、射殺しようとした張本人だ。
それなのに、知りたいと思うなんて、どうかしてる。
完璧な王子様みたいな彼が、実は恐ろしい怪物だった。
ステファンの本性が顕になってから、彼への感情は恐怖のみとなったはずだった。
今の彼は壊れるものを扱うように·····───愛しいものを見つめるようにこちらを見ている。
そんなふうに扱いながら、部屋に監禁しつづけ、この穴で性欲を発散させる。
矛盾している。
いつの間にか外は暗くなっていた。
何時なのかはわからない。
窓から入り込む夜風は乾いていて、少し肌寒い。
ネロは羽毛から飛び出した肩が冷たくて、弱く身震いした。
「少し肌寒いね」
ネロの様子を見て、彼はベッドから起き上がった。
彼はネロにしっかりと羽毛をかけてやると、ズボンのベルトはつけないまま、ワイシャツを羽織り窓の方へと向かう。
大きな窓を閉める彼の横顔は、月の光で神秘的に照らされていて、美しかった。
どこか寂しい光だ。
それがなぜなのか、ネロにはわからない。
しかしその瞳は、こちらを見つめる時、何かから開放されるように、本当に柔らかく細められる。
どうして、そんなに寂しそうな顔をするのだろう。
ネロは彼の横顔をじっと見つめてしまった。
「カーテンも閉めようか」
不意に振り返った碧眼と目が合う。
涼しく静かな夜に、何かが熱くなるのを感じる。
なんだか泣きたくなった。
それが、今までの恐怖やイヴァンへの恋しさでないことは、すぐにわかった。
ネロは首を横に振った。
優しく照る月光が、彼を慰めるような気がした。
ネロがいなくなってから、イヴァンは更に冷徹な男になっていった。
数え切れぬほどやってきた縁談の話も、目を通す前に処分してしまう。長年の友人であるデリックすら手に負えないほどだった。
ある日、彼の元に一通の手紙が届いた。
ステファンからだ。手紙と一緒に送られた革の箱には、屋敷ひとつぶんの金が詰め込まれていた。
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