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〖第九話〗
しおりを挟む孔から、ドロリと濃い白濁が漏れだした。
「ぁ····っ」
指を伸ばしたネロは、行き先をイヴァンに阻まれた。
「じっとしてろ」
会ったばかりの人間に抱かれたというのに、嫌悪感は一切なかった。
どうして彼は、奴隷という立場の自分に、いたわりながらの行為をしたのだろう。
酷い仕打ちを受けると信じて疑わなかった。
優しくされたとしても、この胸の高鳴りはおかしいのでは無いだろうか。
広い背中が離れてゆく。ネロはそっと胸元に手を当てた。
セシルは、ネロの物覚えの悪さに心底あきれていた。
言葉遣いはめちゃくちゃで、まともな会話もままならない。
16にしては幼い顔つきに体型、不安げな表情。何もかもが頼りない。
あの歳で家族に売られ、よりによってこの屋敷にやってくるのだから、余程運が悪いのだろう。
ふと、溶けるような笑顔を思い出す。セシルは軽く首を横に振った。
持って3日だろうか。
慌ただしい一日の終わり、主人の晩餐の場での事だった。
「それで、あの子····ネロは?まだあの部屋にいるのか?」
ディックが意外そうに言った。
奴隷の割に、あれは待遇がよすぎる。せめて屋根裏部屋へ移さないのだろうかと思っていたが、イヴァンは怪訝そうな顔をしただけだった。
「お前に関係ないだろう」
「へえ?」
ディックが尻上がりな口笛を吹く。
「なぁ、帰りに見ていってもいいだろ?ああ、可愛いかったなぁ」
どうやら、彼はネロを相当気に入ったらしい。
イヴァンがナイフを持つ手を止める。
「駄目だ。昼間の話だが、貸すつもりもない」
「····なんだイヴァン、あんなに気がなさそうにしていた癖に」
これは一体全体どういう事だろうかと、セシルはネロを思い出す。
何に対しても興味を示さないこの主人が何かを独占しようとするなんて、初めての事だった。
「さてはお前、あの無垢なネロに『優しくして♥』とか可愛く甘えられちゃってドキッときちゃったんだろ、そうなんだな?」
ディックはくるりとフォークを一回転させる。
ネロが瞳を潤ませ台詞を口にするのが安易に思い浮かべられる。セシルは無表情は、僅かに引きつった。
「そういう趣味はない」
「じゃあどうしてさ」
ディックがワインを一口含む。
「何故だろうな」
それきり、ネロの話題は上がらなかった。
普段と同じように執事の業務をこなし、日付が変わる頃、セシルは自室へと戻る。
ネクタイをほどく。首の締め付けが開放されると、いくらか呼吸が楽になった。
夜露に濡れた中庭は、月光を浴び美しく輝いていた。
疲労した重い身体を引きずり、シャワー室へ向かう。
何はともあれ、ネロの世話、という仕事が増えたわけだ。
セシルはうんざりしてため息を着く。
遠くない将来、その考えが覆されるなど、思ってもみないのだった。
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