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【105】ノワール
しおりを挟むが、ノワールの森は、古ではノワール家の敷地だ。
ジュリオにとってここは幼い頃に生まれ育った場所だった。
そしてニンゲンである千秋もまた、森の効果を全く受けないようだった。
「·····。」
ジュリオは、千秋をチラと確認し、足場の悪い道を進む。
きゅっと引き結ばれた唇は、緩まればたちまち泣き出してしまいそうだ。
「ロイなら、心配ないよ」
「なんで?」
慰めるために言ったが、食い気味な質問が帰ってきた。
「万一の事があっても、混血の上流階級なんだ。ユランの直属の従者でもあるし、最小限の罰で済む筈だよ」
年齢より幼く見える。
ジュリオは言い聞かせるように心配ないと繰り返してやった。
その声がとても優しいことに、本人は気づいていない。
「ば、罰があるの·····?」
千秋は不安げだ。
要らないことを言ってしまったかもしれない。
薄暗い森を2時間ほど歩き続けた。
やがて古びた館が見えてくる。
千秋は呆然とそれを眺めた。
見た事のある館だ。
ここへくるのは初めてのはずなのに、何だかとても懐かしい気分だった。
ジュリオが手に持っていた鍵は、鍵穴にピッタリと当てはまる。
扉は軋みながら開いた。
「居心地悪いかもしれないけど、今夜はここにいよう」
外観は劣化しているものの、中は思っていたよりもずっと綺麗だ。
ジュリオの背中に続く。
なぜこんな場所にひっそりと館が建っているのか、その鍵をなぜ彼が持っているのか。
湧き上がる疑問はどれも、自分と全く関係のない世界のことに思えてしまう。
ロイは、ここは自分のいるべき世界でないといった。
正しい。けれど、ロイやジュリオが、自分にとってかけがえのない存在になってしまっていたのは、紛れもない事実だ。
ここは大切な人達が住む世界なんだ。
関係ないなんてこと、あるはずない。
千秋を部屋に残し、ジュリオが別の部屋へ姿を消す。
そのすきに、千秋は部屋を出た。
早足で廊下を進み、外へ通ずる扉へ手を伸ばす。
後ろから伸びてきた手に、腕を捕まれた。
「何してるの?」
ジュリオだ。
「やっぱ俺、学園に戻る。ロイが咎められる前に、戻らないと」
だから放して、と、こちらを見下ろす青に訴える。
ジュリオだって、自分自身が決めたことなら、了承してくれるはずだ。
しかし、返答は予想とは違っていた。
「駄目だ」
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