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【81話】
しおりを挟むさっきまで恥じらっていたのに、まさか彼本人から話を掘り返してくるとは。
ぬるくなった水を飲み干す。
「···挿れないよ」
そりゃ、男の性に従うなら、迷う間もなく挿入したかったが。
性交して自分の匂いが濃く付けば、ユランからひどい仕打ちを受けるのは千秋だ。
更に自分の性器は母方の種族の中の更に稀な種類の名残で、一度挿入すると短くとも半日は抜けなくなってしまう。
そもそもあんな場所で好きな人を抱くわけにはいかない。
その為にセックスは出来なかったと話し終わる頃、千秋の顔は何故か真っ赤だった。
「入れて欲しいなら入れるけど」
笑わせたくて冗談を言ったつもりだが、千秋はびくりと肩口を震わせただけだ。かなり失言だった。
「·····千秋が好きだ」
次の沈黙を割いたのは、不器用な告白だった。
「俺を選んでくれるまでは、引き下がれない」
彼が自分以外に身を捧げるというなら、諦める気など毛頭ない。
強引で我儘で、酷い告白だということはわかっている。
千秋は目が合うと、悲しそうな顔をした。
「ジュリオの気持ちには、応えられないよ·····」
「諦めないよ」
部屋を出る時、ジュリオは先程と同じ言葉を呟いた。
千秋は逃げるように部屋を飛び出した。
廊下を忍び足で進み、そっと後ろを振り返る。
長い影はまだこちらを見つめていた。
自室に滑り込むと、思わず、深いため息がもれた。
脳内は未だに混乱している。
扉を閉めたら、異変に気づいた。
ベットルームから、あかりが漏れている。
「·····?」
電気を消し忘れたっけ。
恐る恐る寝室を覗くと、明るいオレンジが揺れた。
「カギも閉めずに夜遊びなんて、無用心じゃないかなあ」
間延びした声が告げる。千秋は文字通り飛び上がった。
ベットに、茶髪の男が腰掛けていた。
目が合うとにこやかに手を振ってみせたのは、レオンだ。
「レオン?」
いるはずのない人物だが、彼は確かに長い足を組み、そこに腰掛けている。
「こんばんは、仔猫ちゃん」
彼はふざけた愛称でこちらを呼び、にこやかに手を振った。
「なんで俺の部屋に?」
こんな夜中に、それも他人の自室へ勝手に入るなんて。
千秋の問いかけに、レオンは悪びれもなく答えた。
「鍵空いてたから?」
「うそ···」
朝は急いでいたせいもあり、全く確認してなかった。間抜けもここまで来れば病気だ。
「それでも、勝手に入るなんて·····」
「ルール違反はお互い様じゃん」
咎めるように言った千秋の言葉は、簡単に効力を持たなくなる。
「な、何か用?」
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