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【74話】友情
しおりを挟む本能で彼の血を望んでいる。それはどうしようも無い事実だ。
千秋の言う通り、他の奴と変わらない。
手放しで信じて欲しいとは言えなかった。
「元の場所に戻れるまで、困った事があれば手を貸すから····自分を犠牲にするような発言はしないでくれ」
千秋は何度か瞬きを繰り返した。
寂しげな声から、自分のことを思ってくれていると感じることが出来るのだ。
申し訳ないのと同時に、心は暖かい気持ちで満たされた。
「···俺、最初ここに来た頃、凄く怖かったし、驚いた」
千秋は少しずつ思いを吐露した。
「怖くて痛い思い沢山して」
絶望的だった。
どうして、自分がこんな目に合わなければいけないんだと、神様を恨んだりもした。
「けど·····」
それだけではなかった。
ジュリオやユラン、ウィル、レオン、ロイ。
彼らに出逢えた。
だから、悲しい事ばかりではなかった。
むしろ感謝してもいい部分だって、沢山あったはずだ。
そんな彼らになら、血を提供しても良いと思えてしまっていた。
「今は、帰れなくても仕方ないかなって、思ってるんだ。役に立てるなら、食料源として利用されてもいいって···思えるんだ。だから·····」
だから、優しいジュリオに心配して欲しくなかった。
大丈夫だ。
笑って欲しい。それで罪悪感なく、自分の血を吸って欲しかった。
「だから、ジュリオ、俺の·····」
「───それ、本気で言ってるのか?」
俯いたまま聞いてきたジュリオの声に、千秋はしっかりと頷いた。
ジュリオはなかなか顔を上げてくれなかった。
やがて低い声が、独り言のように呟いた。
「それなら·····俺は、これ以上千秋に優しくできそうにない」
彼が元の世界に帰ることを心の底から願っている真の理由は、彼にとって自分が、優しい友人でいるためだ。
決して自分のものにはならない。
彼の幸せを願って、手の届かない場所へ逃がしてやらなければいけないと言い聞かせていた。
そうすることで、自分が決して手を出せないようにしていた。
けれど、その必要はもう無くなる。
彼はユランや他の吸血鬼に血を吸われても構わないと、そう言ったのだ。
───他の者の手に渡るくらいなら。
千秋を支えるジュリオの腕に、力が込められる。
「·····?ジュリオ·····」
影が近づいてくる。
引き寄せられて、掬うように唇を塞がれた。
「!?·····っや·····」
後頭部を抑えられ、逃げ場を失う。
長い舌が喉元へ伸び、口内を舐めとるようにしてうごめくのを、千秋は信じられない思いで受け止めていた。
「んっ·········っ·····」
どうしてジュリオが、キスを?
わからない。混乱しているうち、そっと床に押し倒されて、身動きが取れなくなってしまう。
「はぁ·····っは·····」
そっと離れた温もりを追うように、千秋は無意識に舌を突き出した。
「·····そんな顔してたんだな。ユランと、キスした時も·····」
感じたのは、怒りにも似た想いだった。
濡れた唇が舐め取られる。再び塞がれる瞬間、低い声が言った。
「俺も、千秋が欲しい」
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