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【69話】昔話
しおりを挟む稚拙な言葉は自分へ向けられた言葉では無いことくらい分かっている。
それなのに、言葉や声が儀式の最中でさえも蘇り、気は散るばかりだった。
あの家畜が誰に向かって言った言葉なのかも、何を思っての発言なのかも分からない戯言だ。
予想以上に儀式で体力を使ったらしい。
鈍く痛んだ頭を休めるように、ユランはソファへ腰かけた。
会えば、何か変わるかもしれない。
あれに気が済むまで聞き出せば、この何とは言えぬ疑問だって解消される可能性は高い。
けれど、それは躊躇われた。
あの阿呆なニンゲンの瞳が恐怖に揺れて自分を見上げる顔など、今は見る気にならなかった。
今日から3日と続く連休に、城から生徒の気配はほとんど遠のいたようだ。
始まりの日と呼ばれる、1年の中で最も大きな記念日。
そして今年は、始まりの日の年からちょうど1万年目を迎えた年である。
歴史によればその日の誕生は、まだ小さな国がいくつもあり、種族同士の戦い事が耐えなかった頃に遡る。
さらに1万年溯り2万年程前。
この場所は、ある吸血鬼の治める土地の一つだった。
吸血鬼は最も高い身体能力と優れた知能を持つ種族だ。
彼らがまだ動物の血だけを啜っていた頃、見たことも無い異種族がノワールの森に紛れ込んだという。
彼らは血色の滲んだ暖かな肌を持ち、少しの衝撃で骨を折ったり、痣を作ってしまう弱い生き物だった。
それから、彼らがニンゲンと呼ばれる異生物ということが知れた。
ニンゲンはある日をさかいに、森から度々捕虜されるようになった。
非力なニンゲンは自由を奪われ、命を脅かされざるを得ない生き物だった。
しかし彼らの血は、どの動物でも全く代用が効かないほど魅惑的な香りと甘く耽美な味がする。
1滴でも啜れば、体の奥底から漲るような活力が湧いてきた。
すぐにニンゲンの希少価値は上がり、その血液は採取されては冷凍保存されるようになった。
ある日、1人のニンゲンが森に迷い込んできた。
黒い瞳に黒い髪を持ち、オスのニンゲンの中では一際小さなニンゲンだったという。
彼は月の綺麗な晩、ある真っ赤な瞳を持つ吸血鬼と出会った。
彼らは燃え上がるような恋に落ちた。
赤い瞳の吸血鬼は、そのニンゲンを酷く溺愛した。
それから間もなくして、ノワールの森からニンゲンが発見されることはなくなった。
彼らが出会って20年程が経ったある日の事だった。
そのニンゲンが病に倒れ、吸血鬼は医師からニンゲンの余命を告げられる。
後の話は諸説あるが、1番濃厚な説としてニンゲンを愛した吸血鬼が彼を吸血鬼にすることを試みたという話が挙げられている。
吸血鬼の牙には、2つの種類が存在する。
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