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【59話】恐ろしい色
しおりを挟む振り返った先に、こちらを眺める赤い瞳があった。
冷たくて恐ろしい色だ。
一度視線を逸らしかけた千秋は、彼の方から流れてきた風に再び意識を呼び戻された。
錆び付いた鉄のような匂いがする。
誰かが怪我をしている。
もう一度視線が絡まりあった深紅は、千秋を捕えて離さない。
こんなにもおぞましく美しい光が、先程の3人のように消えてしまうとは思えない。
千秋、と、蜜のような声が自分を呼ぶ。
千秋は前へ向き直った。
ウィルが、千秋を誘うように首を傾げる。
彼の手を掴めば、この恐怖からも、冷たい深紅からも逃げることが出来る。
しかし千秋の脚は、元来た道を引き返すように、一歩、後ろへと後ずさった。
──────────────
目が覚めてから涙が止まらなかった。
思い出せないが、なにかとても怖い夢を見ていた気がする。静かに泣きじゃくり、しばらくすると、年季のかかった、自室の天井があった。
窓の向こうはまだ薄暗い。
早朝にもかかわらず、ドアの向こうは騒がしかった。
朝っぱらから何を騒いでいるんだろう。
涙のあとを拭った時、コンコン、と、音が響いた。
扉の前にいたのはロイだった。
「お早うございます。準備は···──何してたんですか?」
いつも通り伏せがちに落ち着いた視線は、千秋を一瞥するとたちまち鋭く瞳孔を細めた。
何してたんですか、という声のトーンは半音低い。
千秋は、なんだか不味い予感を察知した。
「寝てた」
「·····」
瞳の温度が氷点下まで下がる。やはり何かやらかしてしまったらしい。
いつの間にか、廊下の騒がしさは落ち着いてきている。
口を閉ざしていたロイが再び言葉を発しかけた時、新たな声が加わった。
「ロイ、どうした?」
甘い余韻を持つ低音だ。
新たに姿を現した男に、千秋はぴしりと固まった。
先日、発情して、挙句逃げ出してしまった相手だ。
「あれ」
こちらに気づいたウィルが声を上げる。
視線が絡まった黄金から、サッと目をそらしてしまった。
狼狽えていたら、灰白い手に腕を掴まれた。
「···すみません。間に合うように急がせます」
「ちょ、ロイ?」
「とりあえず、早急に正装へ着替えてください。靴下は黒のみ、寝癖は時間がないので水で抑えてください。3分以内に」
「なんで···」
「口は動かさなくて結構です」
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