ゴドウィン校のヴァンパイア達~望まぬ転生~

【50話】お気に入り

「や、ちょ、レオン···っ、時間！」


慌てふためいて叫ぶ。
レオンはケロッとした顔で「ああそっか」と言い、千秋はやっと解放された。

いきなり襲ってきたかと思えば、何やらお気に入り認定された。
もはやツッコミどころが分からない。

またねと別れを惜しむように、しかしあっさりと離れていった彼の後ろ姿を見送り、千秋は狐につままれたような気分だった。

彼にとっては、それこそペットを愛でるようなものなのだろうか。
千秋の中で、ただでさえ変人というイメージがあったレオンに、変態というステータスが加わる。

なんだかどっと疲れがおしよせてきた。

結局、悩みは何一つ解決していない。けれど思わぬ人物に、良い場所を教えてもらうことができた。

千秋は再び椅子に体重を預けたのだった。

























さっさと次の教室へ向かいながら、レオンはまた不協和音な口笛を吹き始めた。

元々、か弱い生き物や小動物が好きだ。
小さな力で一生懸命に生きても、容易く命や安全を脅かされてしまう。加護欲と共に、とめどなく加虐欲がそそられる。

小さい頃、四足歩行の使い魔を飼っていた。
もう何匹かは覚えていないが、とにかく長い間いたぶり、殺しては新しく飼い代えていた。
大事に育てて愛情を注ぎ、自分を信用させて、痛みの中に飴を混ぜ込む。
枯れてしまいそうなほど痛めつけたら、うんと優しくしてやって、またそれを繰り返すのだ。

自分に縋りながらも脅える様子はたまらなく愛おしい。

多分、ウィルの性癖も自分のそれと似ている。
今まで彼とレオンで決定的に違う所は、その対象に独占欲が湧くかわかないかくらいだった。

例えばウィルの場合千秋が他の者に印をつけられたり匂いをつけられることを嫌うが、自分はそうでは無い。

対象自体が傷つく姿に、この上なく愛しさと愉しさを感じる。
だからわざとデタラメを教えてユランに犯されるように仕向けたし、ユランの匂いがついた千秋に、その情事を連想させられ興奮したりした。

ふと、デタラメな口笛が止む。


"ウィルさんは、俺の憧れの人だから"


誰を好きだろうと、それが彼を魅力的に痛め付ける材料になれば何でも良かった。
けれど、千秋がウィルを特別視している事は、なんだかつまらない。


「どうしようかな·····」


レオンは考えるように視線をさまよわせた。











寮室へ戻った千秋を待っていたのは、先程避けてしまったジュリオでも無ければ、愛想をつかされたであろうウィルでもなかった。

ざわつく談話室のソファには、見覚えしかない漆黒の髪。
脳内がフリーズし無言のまま退室しようとした千秋だが、


「あ、来た」


思わずというように呟かれた生徒の言葉で、彼がこちらを振り返った。


「ひっ、」


と思わず声を上げ、反射的に壁に張り付く千秋。
美しく凛々しい顔立ちは、たちまち不可解そうに歪まれる。
彼はソファを立ち上がると、大股でこちらへと向かってきた。


「来い」


通りすぎざま、投げ捨てるように声をかけられる。やはり、彼が待っていたのは自分だった。


「おい」