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【43話】耽美な治療
しおりを挟む「身体、辛いんじゃないかな」
ウィルの言葉に、千秋はピシリと固まった。
まさか、気づかれてしまったのだろうか。
「扉の前で支えた時、血の匂いが濃かったから···怪我してるんだろ?」
外では、中々話し辛いことだろうから、と、ウィルが呟く。
千秋は胸を撫で下ろした。
てっきり身体の熱がバレたかと思った。
ほっとしているうちに片手を執られる。
何をするのだろう。
千秋は小首を傾げた。
手首のカフスを外されると、赤黒くなった噛み跡が顕になった。
「!!」
こんなところまで噛みつかれていたなんて。
不安げな千秋を他所に、ウィルはその手首を口元へと持っていった。
当たり前のように傷口を舐め取られる。
千秋は飛び上がった。
「えっ?ウィルさ·····」
「見てごらん」
「·····?」
戸惑いながらも手首を見下ろす。
「あ、れ·····?」
傷は、先程よりも浅くなっていた。
ありえないような現象だ。
「ヴァンパイアの唾液には、治癒効果があるんだ」
だから、千秋はユランに牙を立てられても治りが早いと説明してくれるウィル。
思えば首筋の噛み跡も、新しいものはあれど、数日前のものはすっかり無くなっている。
「だから、俺に治療させて欲しい」
しかし、続いた言葉には、とてもではないが頷けない。
彼に体の隅々を舐め取られるということだ。
千秋は耳まで真っ赤になった。
「で、でも、あの·····変な気分になることも、あるし」
ユランに噛み付かれた時、この身体は必ず発情してしまう。
ヴァンパイアの唾液や牙から漏れ出る効能のせいでは無いのだろうか。
聞いた千秋に、ウィルはいいやと首を振った。
彼の説明によると、媚薬成分は牙を立てた時のみに作用されるらしい。
真剣に治療を勧めてくれるウィルだが、今何故か、身体はすでに疼いているのだ。
千秋は「でも」とだけ呟き口ごもった。
伸びてきた彼の手がそっと制服をぬがせてゆく。
傷だらけの身体を、ウィルはどう思っただろう。
怖かったけれど、彼は変わらず真摯な表情をしていた。
首筋にやわらかい舌が忍ばれる。
千秋は身体を震わせた。
「そんな、ところっ·····汚い·····」
「·····。」
千秋の言葉を無視し、赤い舌が喉元を舐め上げる。
「甘い匂いがする」
身体の熱は募る一方だった。
こんな状況はおかしいに決まっている。
変な声が出てしまいそうだ。千秋は両手で口元を押さえつけ、ウィルに身をあずけた。
彼の手がベルトへと伸びて、止まる。
千秋の陰茎は、スラックス越しにぴんと立ち上がっていた。
それだけでは無い。牙を立てられた時にしか出ないはずの愛液が、尻を伝う感覚がする。
頭の中が真っ白になった。
「っあ·····」
やってしまった。
ウィルを裏切ってしまった罪悪感に、体が震え出す。
後ずさり、ソファから転げ落ちそうになる。
「千秋·····」
ウィルの言葉の続きが怖い。千秋は立ち上がると、はだけた制服を握りしめ、部屋を飛び出した。
引き止める声に振り返ることは出来なかった。
廊下を全力疾走し、何度もつまずきそうになりながら階段を駆け下りる。
談話室へ続く突き当たりで、どん、と、硬いものにぶつかった。
「おおっとぉ」
陽気な声とは裏腹な、力強い腕に受け止められる。 千秋はハッとして相手を見上げた。
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