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【28話】真似事
しおりを挟むまるで死人が甦った瞬間を目の当たりにした気分だ。
ギロリと千秋を見た眼力が、んだよ、とガンをつけてくる。
千秋は怯えながら口を開いた。
「か、課題やりませんか?」
「はぁ?」
意味わかんねぇとでも言いたげに歪められた表情さえ様になる美形だ。が、やはり彼は課題をやる気は無いらしい。
「ンなもん、適当に書いとけよ」
堂々と不正行為を宣言してきた。
「せめて成功しそうなグループの人に教えてもらうとか·····」
「アホかお前」
「ア·····えっ」
唐突にまた貶される。
ユランはヒラヒラと手を振りながら、背もたれにのけぞった。
「成功出来るやつなんてほぼいねえよ」
どうやら彼は説得するだけ無駄だ。
ユランを諦め、机に置かれた教科書に目をやる。
彼がこんな調子なのだから、一人で取り組むしかない。
千秋は教科書の絵を頼りに、教室の戸棚に並べられた液体をいくつか持ってきた。
イラストと1番色の近いものを選んで要らないものを戻す。
誰も頼りにならないと思うと案外やる気が出てくるものだ。
(そうだよ、あんな吸血鬼と協力しなくたって····)
千秋は引き続き教科書のイラストのとおり、緋色と紫の液体を混ぜ合わせようとした。
──机へ突っ伏していたユランはふとまぶたを開く。
隣でカチャカチャとやっているペットがうるさい。
視線をやった先で、彼は他の生徒の真似事をしていた。
ユランは声をかけるより先に手を伸ばした。
「·····まじで、阿呆かお前」
瓶を持っていた腕を後ろから持ち上げられ、千秋は驚いて振り返ろうとする。
危ねぇ、という呟きと共に、瓶が取り上げられた。
ことごとく邪魔してくる。
千秋は苛立ちを覚えるが、ユランは取り上げた瓶を机に置くと、呆れたようにこちらを見下ろした。
「軽く手ぇ吹っ飛んでたぞ」
「へっ」
「ゾルビニの肝臓とクロクイムカデの発酵血·····どうしたらんなチョイスになるんだよ」
丸焼きになりてぇのか、とため息混じりに呟くユラン。
全く聞き取れない単語が飛び出した。
「ぞんび·····???」
「お前、馬鹿なんだな」
改めて言われるほど馬鹿でもないような気がするが、今回は彼に救われたらしい。
「ちょっと間違えただけ」
千秋はぶっきらぼうに返答し、また実験に取り掛かろうとする。
が、混ぜ合わせようとした2つのビーカーは今度こそ無言で取り上げられた。
どうやら、また間違えようだ。
「ふざけてんのか?俺が丸焼きにしてやろうか」
千秋は全力で首を振った。
自分を見下ろす視線はどこまでも冷ややかだ。
ビクビクしながら、また教科書へ視線を戻す。
「··········」
横に座ったユランから心底呆れたような溜息が漏れた。
彼は席を立ち、どこかへ行ってしまう。
そして間もなくして戻ってきて、千秋の方へと椅子を寄せた。
「それ貸せ」
千秋が持った空のビーカーを奪い取り、ユランは鋭い舌打ちを落とした。
「退けよどん臭ぇな」
千秋は慌てて椅子をずらす。
ユランは手にした瓶を照明にかざしながら、スポイトで淡いオレンジの液体を取り出した。
取り出した液体をもう一つのビーカーへ数滴垂らし、長い指が器用にそれをかき混ぜた。
「何してるんですか?」
純粋な疑問を投げるが、返されたのは冷めた流し目だけだ。
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