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【25話】甘い誘い
しおりを挟む「ひぁっ?」
両腕を片手に掴まれる。
優しい束縛は、振り払おうとすれば簡単に離れることが出来そうだ。
しかし、切なげな声が鼓膜にこびりついて、拒むことが出来ない。
ウィルは千秋を抱きしめたまま、再び口火を切った。
「俺なら、ユランから千秋を匿うこともできるし·····君に酷いことなんて、絶対にしないよ」
君が元の場所に戻れるように、手助けもする。そう話すウィルの言葉は、ユランの言葉よりもずっと信憑性があるはずだ。
しかし、胸のざわめきは大きくなる一方だった。
「俺の所に来ない?」
彼は、なぜここまで自分を気にかけてくれるのだろうか。
ヴィゼルの監督生である彼が千秋に世話を焼くのは、百歩譲って当たり前と言える。が、今の提案も、この行動も、世話を焼く範囲を明らかに超えている。
「どうして、俺にそこまで良くしてくれるんですか·····?」
鼓動は知らず知らず早足になってゆく。
この距離感は異常だ。
なにか理由があるのなら、それは·····───。
「····こんなに気になるのは、君が初めてだよ」
格好良くて、憧れのウィル。
どうして自分なんかに惹かれたのは分からないが、そんな彼に特別扱いをされ、甘い言葉をかけられて───嬉しくない訳がなかった。
「千秋」
手を引かれ、ウィルと向き合う。
額に鼻を摺り寄せられる。息を飲むほど綺麗な眼差しが、ゆっくりと近づいてきた。
「ウィルさ··········ん·····」
チュ、と触れるだけのキスにリップ音を残し、彼の温もりが離れてゆく。
ダメだと、硬い胸元に手をやる。再び両手首の自由を奪われてしまった。
「や·····っ」
「嫌?」
「あ·····、だめ·····」
千秋は強く瞼を閉じる。
唇に触れると思った彼の唇は、こめかみの辺りに触れ、続いて耳元、頬へと啄むようにキスをされる。
ついに、唇を塞がれる。
「んっ·····」
"俺なら、ユランから千秋を匿うこともできるし·····君に酷いことなんて、絶対にしないよ"
彼の言葉に頷けば、きっともう恐ろしいユランの元へ戻らなくて良くなる。
だが、千秋はすんでのところで思い悩んでいた。
彼を信じてもいいのか、と。
ウィルを疑う事は、今まで自分に良くしてくれていた彼を裏切るようなことだと分かってはいるのだ。
けれどどうしても、昨日のジュリオの言葉が頭を離れない。
今度は深く唇を奪われそうな気配から、千秋はふいと顔を背けた。
「か、考えさせて下さい·····」
やっとの思いでそう言って、千秋はぎこちなく言葉を続ける。
「ウィルさんみたいな人が俺をそんなふうに思ってくれてるのとか、ありえないし、俺、色々と混乱してて·····」
「なぜ?」
低い声が遮った。
「·····?」
ギジリと手首がきしんだ。
ウィルの腕に強く握られ、手指の血管が圧迫される。
ありえないほど強い力だ。千秋が言葉を失った時、無機質なノックの音が部屋へ響いた。
「ウィリアム、いるか?」
部屋の扉の方から誰かが話しかける。
ウィルは千秋からぱっと手を離した。
徐に振り返った彼が扉の方へと歩いてゆく。千秋は安堵から壁に手を着いた。
ウィルの後ろから廊下を覗く。
部屋の前に佇んでいたのはジュリオだ。
「ディグリー教授が探してる」
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