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【7話】優美な監督生

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「·····いえ、必要最低限な屋外の案内は済んだので、そうしましょう」


ロイは千秋の手を解き先を歩き出す。
こちらを煙たがるような態度は相変わらずだ。
行き場の無い手を誤魔化すように、千秋は両手を後ろで組んだ。

























門を通り、外靴のまま城へ足を踏み入れる。
広く長い廊下を歩く間、幾つもの扉を通り過ぎた。


「なんの教室?」

「手前から、第一小講義室、第一中講義室、大講義室です。向かいの扉は第一研究室です」


おそらく授業中だろうと説明が加えられる。
二階も同じような造りで、三階の廊下にはバルコニーが取り付けられていた。
高所は苦手だ。


「俺とロイのクラスはどこ?」


そろそろひとつの場所に留まりたい。
ロイに聞くと、彼は登ったばかりの階段を降り始めた。
千秋は薄い階段を見下ろし、落胆のため息をついた。

授業中にしたって物音ひとつ聞こえないのだから、気味が悪い。


「監督生の方へ挨拶に行きます」


早歩きに感じるのは、脚の長さの問題もある。
人知れず負けた気分になった。
別に、短足って訳でもないのに。

ムスッとしながら彼に続く。
一階の広場に出たら、柱の横に人影を見つけた。

背が高くて、モデルみたいにスタイルの良い男だ。

振り返った青年が口元を綻ばせる。
白銀の髪が眩しい。瞳は濃密な黄金だった。


「お待たせしてしまいすみません」


ロイが謝罪し、こちらを振り返る。


「彼です」


流れるような視線と目が合う。
正面から見た相手の顔は、ちょっと気後れして、これ以上長く視線が合っていれば冷や汗が出てしまいそうな美形だ。


「ヴィゼル寮監督生の、ウィリアム・ヨハン・ファントムレイだ」


甘い響きを持つ低音。
向けられた微笑みは、うっとりするような魅力を放った。


「ち、千秋です」

「よろしくね、千秋」


ぎこちなく礼をする。目の前に靱やかな手が伸びてきた。


「俺のことは、気軽にウィルと呼んで」


差し出された手を握り返す。
千秋は戸惑った。
人間は、この世界においてとても奇異な存在だ。
快く歓迎されることは無いだろうと信じて疑わなかった。


「それじゃあ、寮室に行こうか」


ウィルが先を歩き出す。
しかしロイはウィルに会釈をし、来た道を戻り始めた。


「え、ちょ、ロイ·····」


彼は千秋を無視してさっさと歩いていってしまう。
途中から明らかに機嫌が悪くなったのだ。
なにかしてしまっただろうか。考えてみるものの、思い当たる節は一つも無い。


「ロイがいないと心細い?」


ウィルが問いかける。
千秋は物凄い勢いで首を横に振った。


「はは、そっか」


美術品のような顔が楽しげに笑う。つい見とれてしまいそうになり、頭を撫でた手に飛びあがった。


「ロイは必修の授業に向かったんだ」


受講科目は、クラスの区切りと関係なく振り分けられているらしい。


「ロイが居ない時は」


優しげな声が言葉を続けた。


「何かあれば、遠慮せず俺に頼ってね」


ここに来て初めて親切なヴァンパイアに出会えた。
千秋は感極まり、大きく頷いた。


「ここがヴィゼル寮談話室」


やがて大きな扉の前にたどり着いた。
一見するとただの額縁のようなそれには、鷲の形に彫られたドアノブが取り付けられている。
開いた先に、ゴシック調の部屋があった。








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