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【4話】ユラン様

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千秋は思わず顔を上げる。
燃えるような赤と目が合った。


「あ·····」


グロテスクな程赤い瞳に、切れ長の目元。
見たこともないほど精巧に整った顔立ちが、嫌な笑みを浮かべていた。


「ユラン様、だ」


血色のない唇が呼べと命令する。
千秋は彼の名を呟いた。























屋敷の中はどこも陰気臭かった。

ユランという男は召使いを呼び何かを耳打ちすると、すぐにどこかへいなくなってしまった。
千秋は部屋を案内され、着替えを与えられた。


分厚い窓の向こうの空はグレー1色。夜なのか朝なのか、はたまた昼なのかさえ分からない。

見下ろした庭には枯葉が生い茂り、色褪せた花が成っている。
世にいう転移というものだろうか。千秋は他人事のように分析していた。
あまりに非現実的な状況に立たされると、人間はかえって冷静になれてしまうらしい。

扉が二度、ノックされた。


「失礼します」


入ってきたのは20歳前後の青年だ。
灰色の髪を掻き揚げ、余り毛を後ろでたばねている。


「今日からチアキさんのお世話係に任命されました、ロイです」


抑揚の少ない声で述べた彼は、目を合わせることも無く形式上の礼をした。

肌は白灰色。
型の古いスーツはシワひとつなく、潔癖なイメージを覚える。


「えっと·····ロイ、さん?」


「どうぞ、ロイと呼んでださい」


彼は軽く首を振った。


「あの、何個か質問してもいい?」


聞きたいことが山ほどあるのだ。
悩んだ末、千秋ええっとと口を開いた。


「ここは吸血鬼の世界なの?人間はいるの?ロイも、吸血鬼なの?」


まずは、ここはどこで、彼らは何者なのか。そして同じ人間がいるのかを知りたかった。
対して、相手は何故か、鼻先で微笑をこぼした。


「面白いことを仰る」


嫌な感じの笑い方だ。
千秋は眉をひそめた。


「吸血鬼の世界ですか。貴方のいた場所が「人間の世界」というならば、そうかもしれませんが」


「·····?」


千秋は首を傾げる。
彼はすいと人差し指を持ち上げた。
木の枝みたいに長いそれに驚いていると、「私たちには」と抑揚のない声が説明を始めた。


「私達には種族や混合種、身分階級が存在します。そのうち吸血鬼は全体の10パーセント、純血の吸血鬼は0.1パーセントを満たしません」


最下級が悪魔の使い魔、中間層が悪魔や魔物の混合種、純血。中間高位層が魔物又は悪魔の吸血鬼の混合種、高位層が吸血鬼の血の強い混血。そして最高位が吸血鬼の純血。
身分は血筋によって決まっているという。


「私は悪魔と吸血鬼の混血ですから、純粋な吸血鬼ではありません」


千秋はぎこちなく頷いた。

敬語の割に、彼の眼差しはどこか上から目線だ。
わざとらしいほど丁寧な説明の通りであれば、この世界を『吸血鬼の世界』と呼ぶにはいささか差別的であるような気もした。


「生まれた時から身分が決まってるなんて、変なの」


「··········。」


なんでもない事のように疑問を口に出す千秋。


一瞬顰められたロイの表情には気が付かなかった。


「そちらの世界でも同じでしょう。人間以外の動物の命は軽んじられている。種族によって更に生命の重要度が違いますよね」


先程自分自身が元の場所を『人間の世界』と称したことを思い出す。
否定はできなかった。


「時にチアキさんは、」


ふいに自分の名前が含まれる。











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