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【2話】怪しい街

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並んだ店の前には、英語に似て非なる文字のパラペットやスタンド看板が、怪しい光を灯していた。


「な·····ここ·····?」


楽しげな笑い声か通り過ぎてゆく。

バーの店頭に並べられたガラス瓶に目をやった千秋は絶句した。
瓶の中はどれも赤黒く、しかし鮮やかな色をした液体だった。

まさに血のような────。

千秋は叫びかけ、口を閉ざす。


(ここは、一体·····?)


「ヒヒィン!」


大きな影が千秋を覆った。
割れるような馬の鳴き声が頭上に降りかかる。
見上げた先の馬の蹄を、千秋はすんでのところで転がり避けた。


「どう、どう!!」


目の前で大きな馬車が停車した。
間一髪だ。


「この馬車をどなたのものと思われる!」


嗄れた声が唾を飛ばしながら叱責するのを、どこか現実味のない眼差しで眺める。
立派な馬車の後ろには馬に乗った男達が列をなしている。


「す、すいませ·····」


「無礼者が!」


千秋の謝罪は怒鳴り声にかき消された。
男が懐に手を伸ばす。
躊躇なく取りだされたのは玩具にしては出来すぎている拳銃だった。


「死んで償え!」


これは夢でもなければ、冗談でもない。
殺される───千秋はやっと今の状況を理解した。


(に、逃げないと·····)


こんなところで死にたくない。
そう、強く思った時だった。


「煩いな·····」


地を這うような低音が呟かれた。
拳銃を持った男は、びくりと飛び上がった。


「ユ、ユラン様·····」


しゃがれ声は先程とは別人のように弱々しい。


(ユラン様·····?)


黒く着色されたガラス窓から馬車の中を覗く。
若く、背の高い男のシルエットがあった。

目を凝らすと、ギラギラと光る深紅と目が合った。


「·····?」

「ニンゲンだ·····」


どこからともなく、そんな声が聞こえた。

気がつくと、楽しげな騒音はピタリと止んでいた。


「おい、あれ、·····ニンゲンじゃないか?」

「ニンゲンだ·····」

「あれがニンゲン·····?」

「生きたニンゲンだ」


ざわめきが大きくなってゆく。千秋は周りを見渡した。


「え·····?」


街の住人たちが、皆千秋を眺めている。
これは、獲物を狙う視線だ。

千秋はすくむ足で立ち上がると、次の瞬間一目散に走り出した。


「···──捕まえろ」


馬車の中にいる男が命令する。
後ろに待機していた男達はいっせいに馬を走らせた。
これが命懸けの追いかけっこの始まりだった。


「───いたぞ!逃がすな!」

「先回りしろ!」


足の感覚が無くなっても、千秋は闇雲に走り続けた。

野生動物とともに森を駆け回っていた脚でも、長い間全速力で走っていれば限界がくる。
もつれそうになる足を叱咤し、唾液を飲み込む。


「なんで·····っ」


こんなことになったんだと言葉にならない疑問を脳内で叫ぶも、答えてくれる者はいない。

酸欠の脳が吐き気を呼び起こす。
とうとう地面に倒れ込んでしまった。逃げないとと呟いたところで、逃げたところでどうするのだろうと、誰かが云う。

きっと、これは夢だ。
そもそも居場所のない人間が、どこに逃げると言うのだろう。

蹄の音が近付いてくる。
千秋はまた、鉛のように下がってくる瞼を閉じた。




















「ン·····っ」


薄暗い部屋で目を覚ました。

両手両足が椅子に縛り付けられている。
悪夢は続くようだった。

ギィィ─────。









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