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しおりを挟むエダンについて聞きたかったが、キリアンの話に頷いているうち時間が過ぎてしまった。
まるでわざとそうしているかのように、彼はずっと中身のないことを話していた。
消灯時間数分前。
アリステアは自室の前で立ち止まった。
本性の分からないキリアンに、無愛想なルームメイト。1番初めは物語中も謎めいていたリライザに喧嘩を売った。
そして、疑問が募った。
1つ目は、リライザとキリアンの関係だ。
原作でキリアンとリライザは酷く憎しみあっていた。対照的に過去の話では、親友だったと記されていた。
しかし今の彼らには、情が湧いている雰囲気どころか個人的な接点すら見当たらない。
(このアカデミーで深い関わりを持つことになるのか?)
2つ目の疑問は、物語の皇帝キリアンと今のキリアンの人格の違いだ。
危ない奴だが、まだ話が出来る人間だ。18歳の青年らしい顔だってしてみせる。
それが、数年後には「血の皇帝」と称されるほど冷酷になるらしい。
他人事ではない。一時的に死滅を逃れただけで、この先無事なんていう保証はない。
(とすると、ベルゴッドで、彼がそうなるだけの出来事が?)
ベルゴッドアカデミー。
全ての元凶がここで生まれるのだとしたら、アリストになりすまして入団した事は、解決の糸口ではない。
本当の始まりはここからなのかもしれない。
最後の疑問は、エダン・セルバーについて。
(こいつはただの変態野郎かもしれない。考えるのはやめよう)
アリステアは脳内から早々にエダンを追い出した。
また襲ってきたら、今度は顔面に肘鉄をくらわしてやればいい。
ノブに手をかける。
「·····入らないのか?」
「ぅわ!」
思わず大声を上げ、両手で口を押さえる。
振り返ったすぐ先にエダンがいた。
またギリギリに帰ってきたんだ。
今日は自分も他人のことを言えない。部屋に入ると、後ろの男も一緒に入ってきた。
「昨日は悪かった」
早速口火を切ったのはエダンだった。
「·····」
気乗りしないが相手を振り返る。
あの時のエダンの様子に似たのを、前世にも見た事がある。
あれは、自我を失った者の目だ。
「説明して」
彼は逡巡するように視線をさまよわせ、頷く。
混合能力者が本当にいたなんて。少し興味を持って耳を傾けるが、エダンはなかなか話し始めない。
「頼みがあるんだ」
「頼み?」
今度は何を言い出すんだろう。
「何?」
聞くだけ聞いてみよう。
彼は誰もいないはずの部屋を見渡して、こちらへ1歩近づく。
高身長が憎い。アリステアは彼を見上げる形になった。
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