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11.キリアン

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「また後で」


引き攣る口角を抑え、返答する。
少し混んできた廊下を小走りに進み、アリステアはひとけのない広場へ出た。

あんなやつがルームメイトだなんて、最悪だ。


「相当だな」


当たり前のように着いてきたキリアンが言う。
皆の手前、腹が煮えくり返りそうな思いを殺して返答したのだ。優しいと言って欲しい。

確かさっきは、よく無事だった、と、言っていた。

男同士で、それも強引にソンナこと、外道にも程がある。
あの綺麗な顔で何人を慰みものにしてきたのだろうか。恐ろしい。


「で、部屋は水浸しだろ?」

「·····水浸し?」

「違うのか?じゃあ、首を絞められたとか?」


何だか話が噛み合わない。
目が合っただけで気絶したやつもいたっけと、キリアンが呟く。


「どういうことですか?」

「ほんとに知らないのか?」


質問を質問で返された。
金の瞳が、怪しむようにこっちを見る。ギクリとするが、彼は「まあいいや」と首を振った。


「あいつ"混じって"んだよ」

「混じってる」


本で読んだことがある。
異能力者同士の子孫は、普通秀でた方の能力を引き継ぐ。しかしまれに、どちらの能力も持って産まれてくるのがいる。

彼らは皆狂人とされた。
俗話では、関わった者は不幸に合うとか、呪われるとか、様々な説が飛び交っている。
実際エダンは誰かに危害を加えた過去があるらしい。

しかしキリアンの話を聞くに、彼が男に手を出したという前例は無さそうだ。

(じゃあ、アレはなんだ?)


感触を思い出し、アリステアは慌てて首を振る。


「俺のところに来るか?」

「はい?」


声が裏返ってしまった。

底辺貴族の自分が頼んだところで、ルーム替えとかの融通をきかせてもらえるはずはない。
しかし、キリアンなら、顎先だけでそれが可能だ。


「いいえ」


提案は飲めない。

血も涙もない傲慢な皇帝。それがキリアンの本性だ。
そんな彼が、底辺貴族の自分に親しく話しかけ、善意だけで傍に置く?
全てがおかしいではないか。

確かニホンには、狼人間が人間に紛れ込み、夜中になると人を殺すゲームがあった。
彼はその狼に似てる。

感は鋭い方だ。


「やっぱお前、面白いな」


キリアンがほくそ笑む。
彼はエダンよりもずっと危険な男だ。
そして自分は、そんな彼に目をつけられてしまったのだ。








───背に腹は変えられない。
アリステアは入室時限ギリギリまでキリアンの部屋で過ごした。
彼は例外的に一人部屋だった。しかし、それ以外は他の部屋と変わりない。

金持ちが庶民の暮らしを真似したくなるように、彼もまた、一般的なアカデミー生のごっこ遊びをしているみたいだった。





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