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キリアン・ベルサール・ゴルデン。
1年後、リライザと共に称号を手にする天才能力者。

そして、この国を恐慌に陥れる未来の皇帝だ。



盲点だった。
今年の入団者競争率は前例にない倍率をたたき出した。
アリストへ推薦状が来たのも、リライザやほかの著名貴族が入団したのも、全てはこの男が原因だったのだ。

ブロンドに黄金を溶かしたような瞳に、見るものを虜にするような容姿。
物語の通りだ。が、あんまりにも品が無さすぎ──いや、フレンドリーすぎて微塵も気が付かなかった。


「キリ·····殿下、ご友人なら僕よりも相応しい方が沢山いますが」

「俺はお前がいいって言ってるんだから、良いんだよ。キリアンでいい。同じこと言わせるな」


変わり身早いなと笑いながら、彼は長い足を組み替えた。

なんて感動的なセリフだろうか。全く嬉しくない。
身分階級社会で自分に見合った友達を探すのは暗黙のルールだ。
リライザの一件で浮く方がまだマシである。


「友達にはなれません」

「なら奴隷にでもなるか?」

「お言葉ですが」


アリステアは浅くため息をついた。
"名誉と富を挽回する機会"?馬鹿馬鹿しい。


「奴隷と友人になるのは辞めた方が良いと思います」


かつて、皇族へ命を捧げてきたティグリー。
役に立たないと判断されると、残った褒美を取り上げられ、辺境へ追いやられた。

彼も同じだ。
友人も忠臣も、目下のものたちは皆、奴隷と変わりない。
だから皇族は嫌いだ。


「知ってるか?奴隷は、俺が命令すればなんにでもなるんだ」


彼はなんでもないことのように言った。

今この瞬間、アリステアは確信した。
彼とは一生分かり合えない。

初めに実施されたのは筆記テストだった。
治療学や気候学、状況の対処、礼儀作法、あとは数学や地学、うんたらかんたら。この世界で勉強なんて全くしていないから、アリステアは前世の知見のみで問題を解いた。できるだけ簡素に、適当に。

歴史と地学は全くわからなかったので早々に諦めた。
暫くすると、周りの生徒達がせっせこと筆を動かし続ける中、となりのキリアンが船をこきはじめた。


(しつこいな)


時折、肩口に強い視線を感じた。
どの辺りの、さらに誰からのものかはわかっている。アリステアは気付かないふりをした。


「このテストは実践のクラス分けの際参考にします」


教師が授業終了を告げるのとともに席を立つ。

あいつがこっちに向かってきてる。話しかけられる前に離れようと目論見るが、


「ティグリー」


教室を出る寸前、とうとう声をかけられてしまった。
エダンだ。
教室の騒がしさが一瞬遠のいた気がした。





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