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「有名な話だろ。相当田舎ものだな、お前」


普通、家紋間の情報共有や噂話は、貴族の中では重要な嗜みのひとつだ。
アリステアは逡巡の末、



「ティグリーだ」


結局自分から名乗る。


「ティグリー?」


相手の視線に侮蔑が篭もる。


「そんな家紋もあったな。典型的な落ちぶれ貴族か」


今ではすっかり落ちぶれて辺境に追いやられた半没落貴族。
笑い話にするには古いネタだろう。知らないものも多い話だが、彼は見た目に似合わず物知りらしい。


「ティグリーの当主もとうとう気がおかしくなったんだな。お前みたいに貧弱な息子を騎士団に入れるとは」


アリステアは密かに拳を握りしめた。


「優秀生徒に授与される賞金や称号をもってこいとでも言われたんだろ?相当イカれちまってるぜ。剣も握れなさそうなベイビーに───」

「そっちの名前は?」


アリステアは遮るようにして話題を変えた。
家族を侮辱されると冷静な判断が難しくなる。
危うくつかみかかるところだった。


「おい、まじかよ」


廊下中に大笑いが響く。 
エダンも変人だが、こいつも多分相当ヤバい種類だ。

教室に入り、わざと隣が埋まっている席に座る。俺に感謝した方がいいと言いながら、彼はアリステアの隣にいる生徒を視線だけで追い払い、隣に腰かけてきた。


「お前が変なのに絡まれないのは俺のおかげだぜ」


それは、既に自分という"変なの"に絡まれてるからだとかいう自虐ネタだろうか。


「じゃなきゃ今頃、エバンスの信者か、獲物を探してるいじめっ子に袋叩きされてる」

「ありがたいよ」


適当に言い返すと、ククク、と、彼はまた特徴的な笑い声をこぼした。


「面白い奴だな」

「お偉い方に褒めてもらえるなんて光栄だ」

「キリアン・ベルサール・ゴルデン」

「は?」

「キリアンでいい」


隣の男を凝視する。
この無駄に整った唇は、今なんと言った?


「いい加減にしなよ」


昨日みたいに人気のないところならともかく、ここは教室だ。
巻き添えをくらって冒涜罪で殺されるのは嫌だ。睨みつけるが、彼は愉しげな表情のまま頬杖を着いた。


「お前を守ってやるよ」


教室を見渡す。
周りの生徒たちは、皆どこか興奮した面持ちでこっちを見ている。
──否、隣の彼を、だ。


「俺たち友達になろう」


キリアン・ベルサール・ゴルデン。
1年後、イライザと共に称号を手にする天才能力者。

そして、この国を恐慌に陥れる未来の皇帝だ。




















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