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8.
しおりを挟む「·····?」
眼球だけが自由に動く。
見つめあった瞳は完全に座っていた。
「エ、ダ·····っ」
忍び込んできた舌が、唇をこじ開ける。
逃げるように首を振ったつもりだが、彼は反対方向へ首を傾け、さらに奥への侵入を試みる。
(体が動かない)
これは、なにかの異能力か?
サイコキネシスではない。それを使えるのは公爵血筋の神の子だけであるからだ。
腰を引き寄せた手は驚くほど冷たかった。
(違う)
そもそも、サイコキネシスは誰かの意思によって物体をあやつる異能力。
これは、まるで自分の"自身"が、強烈な催眠にかかるような───。
「·····は·····っ」
振動と、木の軋む音。
ベットへ押し倒されたと気が付くには数秒かかった。
高い鼻が頬をかすめる。
視界に広がったのは色気のある男の顔。ゆるんだ脳みそに語りかけるような視線を、アリステアは強制的に遮断した。
彼の目を見てはダメだ。
まぶたが閉じると、身体が一瞬軽くなる。
何世にも渡って鍛えた精神力を信じて、思い切り足を振り上げた。
膝がエダンのみぞおちに食い込む。かなり重い一撃のはずだが、相手はうめき声ひとつあげない。
しかし、身体に残っていた邪悪な気配は、一瞬にして消え去った。
「───アリステア・ティグリー?」
問答無用で彼のうなじへ肘を落とす。
巨体が傾き、こちらへ向かって落下してくる。
アリステアは転がるようにしてベットから逃げ出した。
息を整える間もなく扉の前へ。ノブをひねる前に、既のところでもちこたえる。
気絶したエダンの両手はとりあえず麻で縛った。
深呼吸を繰り返して、時分は反対側のベットへ。目を瞑ると、生々しい感触がよみがえってくる。
こんなの、聞いていない。
今宵アリステアは、脳内の愚兄アリストを罵倒することに余念が無かった。
「昨日早速"あった"って感じだな」
本館へ向かう途中、馴れ馴れしく肩を抱かれた。
昨日、こっちをからかってきた男だ。追い払いたいが、聞きたいことがあるので我慢する。
「運が悪かったって、どういう意味?」
「既に分かってるだろ?それにしてもよく無事だったな」
「····無事じゃなかった人もいるの?」
「ああ?」
彼は訝しげにこちらをのぞきこんできた。
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