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7.運が悪い
しおりを挟む金粉が舞ったと思ったが、違った。
「一日にして有名人になれたな」
相手がブロンドをかきあげながら宙を仰ぐ。
ククク、と、こらえるようにして笑う様のせいで、美形が台無しだ。
「ピンクって」
「笑ってる場合?」
冷めた視線で彼を見つめ返す。
いいとこの貴族令息って、意外と無礼な奴が多いんだろうか。
それとも、自分が舐められているのか?
「その発言は公爵家を冒涜してることになる」
「勘違いすんなよ」
彼はうんざりしたように首を振った。
「俺はあのいけ好かない野郎が大嫌いなんだ」
ジー、と、けたたましい音がなる。
入室を促す鐘の音だ。
声量も抑えずに、なんてことを言うんだろう。
唖然としていると、最後に、と、彼はこちらへ背を向けざま言った。
「お前のとこのルームメイト。運がなかったな」
目の前で古びた扉が閉まる。
「·····は?」
それは、僕と彼、どっちが?
一方的な会話を反芻するも、内容は全く理解できない。
入団式を終え、訓練服を受け取り、日が暮れる。今日3回目の鐘が鳴る5分前、アリステアは仕方なくベットから腰を持ち上げた。
同室のエダンが戻ってこないのだ。
扉の前で出くわして以降、1度も姿を見かけていない。
入団式に参加しなかったのだろうか?
彼が点呼の時間に遅れれば、連帯責任として自分にもペナルティーが与えられる。
冗談じゃない。
意味もなく部屋を一周したころ、
「!」
静かに扉が開いた。
びっくりした。
転生した身でありながら、幽霊とかの類は苦手だ。飛び上がったのを誤魔化すように咳払いする。
「エダン?」
彼の様子はおかしかった。
扉の前に佇んだまま、うつろな瞳は床を眺めている。
「今までどこへ?」
聞くが、返答は来ない。
感じの悪いルームメイトだ。
アリステアは抗議を諦めた。
「·····いや、いいや。過干渉する気は無いから、とにかく、点呼の時間には戻───」
台詞はしりすぼみに消えた。
頑丈な首がこちらを向く。
昼間は水面色だった瞳が、今は色濃く渦巻いていた。
「·····エダン?」
彼はゆっくりとこちらへ向かってきた。
(あれ?)
あとずさろうとするが、足は言うことを聞かない。
まるで海の底へ沈んでゆくような倦怠感だ。
大きな手が顔面で広げられる。頬を撫でられると、そこから変な鳥肌が立った。
碧眼と見つめあう。
首が軋む。
気がつけば、唇は生ぬるい温もりに塞がれていた。
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