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6.リラ

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自分をリラと名乗った男は手続きの終えた書類を受け取り、校舎の中へと入ってゆく。

しゃがみこんでいた男が気まずそうに彼の後を追いかけてゆく。
アリステアの周りには、さっきよりも広い空間ができていた。


















触らぬ神に祟りなしという言葉があった。
これは、この学校の大多数の生徒に当てはまるだろう。
しかし、何事にも度合いというものがある。
例えば毒キノコにも種類があるし、酒だって1つずつアルコール度数が違う。

1年寮階の、最奥の部屋。
冬はいちばん寒い位置だ。他の寮室よりも少し広いからと付け足される説明を聞き流し、重い足取りで廊下を進む。

輝くような容姿に、サイコキネシスの能力を持った美男子。
間違いない。

物語の主要人物、リライザ・エバンスだ。
公爵家の長男で、王位継承権第二位。皇太子の親友であり、1年後には最年少にして国の特殊戦士(サイキック)の称号を得る超人。

原作では確か、騎士団への入団を「見物」とか言っていた気がする。

要するに住む世界が違う人種だ。
入団早々とんでもない大物に喧嘩を売ってしまった。


この2年間は、日陰に生える雑草のように生きよう。
決意と共に扉を開けた途端、目の前が闇に包まれた。
硬い胸元だ。


「わっ」


こっちを支えようと、目の前に腕が伸びてくる。
アリステアは咄嗟に身を翻した。

目の前にいたのは、屈強な体付きの男だった。
ここは割り当てられた扉の前。そこから出てきたのだから、ルームメイトだ。


「同室のアリスト・ティグリーです」


差し障りなく口角を上げる。
相手は何故か不思議そうにこちらを見下ろしている。


「·····あの?」

「·····エダンだ。エダン・セルバー」


なんだか聞いたことのある名前だ。
すこし冷たい感じのする目は、湖みたいに済んだブルー。無造作な黒髪が野生のカラスを思わせた。


「急いでるんだ」


彼はそれだけ言って、廊下の向こうへ消えてしまった。

(急いでる?)

午後にある入団式までは随分時間がある。
一体、新入生がどんな用があるって言うんだろう。


「"ピンク"」


向かいの部屋から聞こえよがしな囁きが聞こえてきた。
続いて、乾いた笑い声。
早速冷やかしだ。アリステアは無視して部屋に入ろうとした。


「あ、待てよ」


閉じかけた扉をこじ開けられる。




    
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