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1.兄の失踪
しおりを挟む"親愛なる弟へ
私は自分の信念を貫くこととします。
あとは任せる。
お前のただ1人のとてもとても愛しき愚兄 アリスト・ティグリー"
空き部屋で見つけた置き手紙は数日前に書かれたものだ。
アリステアは読み終えると同時に、それを木っ端微塵に破り裂いた。
アリスト・ティグリー。元剣豪家ティグリー伯爵家の長男で、2つ上の我が兄。
数日前から行方不明だったが、たった今故意による失踪だと判明した。それも伯爵家の全財産と共に、だ。
"皇族は無慈悲な男だった。かつて戦場を共にし生き残ったティグリーさえ、些細な齟齬で一家もろとも死滅させた。キリアンはその血を継いだらしく、冷徹な皇帝だった"
第一被害者だ。
皇帝の傲慢さを語るためだけに滅ぼされる罪なき家紋。そしてこのままでは、物語の通り自分も殺されてしまう。
「今日、何日?」
「2月28日です」
メイドのロマは機械みたいな声で答える。
出発の日まではあと三日。時間が無い。
アリステアは机の上の短剣を掴んだ。
向かったのは廊下の向こうの吹き抜け。刃先は、躊躇うことなく大きな肖像画を切り裂いた。
年上は右、次が左。並び位置はそう決まっているからだ。
「ロマ、ケビンに頼んで、これを今すぐ──」
おまけで、兄の顔面を必要以上に切り付ける。
少しスッキリした。
「燃やしてって」
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