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《305》結果

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「お前を可愛がってる皇帝には言えないようなことなのか?」

「お願い、話を·····」

「黙れ」


イアードは怒号に変わりつつある声を殺した。

初めからおかしかった。
好意的な姿勢は、全てこちらを騙すための演技だったのだ。

通りで、気を惹くことばかりしてみせるわけだ。
少しでも聞く耳をもった自分が馬鹿だった。

こちらへ歩みよるノワの目的など1つしかない。
もしかしたらなんて、あるはずの無い期待に踊らされていた。


「お前の狙いは、俺を手駒にすることだったんだな」


「·····は·····?」


話していてもキリがない。
イアードはノワに背を向け、テラスから抜け出した。

すぐに軽い足音が追いかけてきた。


「イアード、待って!ちゃんと話を·····──っ!」


伸びてきた手をひねりあげ、壁に叩き付ける。
憤りに任せ引っ張ったシャツは大きく裂け、床にはボタンが飛び散った。


「いっ·····」


黒い瞳は見開かれ、こちらを見つめたまま小さく揺れた。

驚いたせいか、頬はほんのりと赤い。
思いがけず情煽的な光景に生唾を飲み込み──イアードは、直ぐに手を離した。


───お前は、フィアンのことが好きなくせに。


一発ぶん殴ってやろうかと握りしめた拳は、行き場もなく壁を凶弾した。

彼に絆されていた。
どうしようもなく惹かれていた。

騙されていると知った今でさえ、手をあげることはおろか、怒鳴りつけることすら出来ない。


「イアード·····」


忌々しい声が呟く。
これ以上イライラさせられたら、気が狂ってしまいそうだ。


「クソが」


吐き捨てるような呟きを最後に、イアードは部屋を後にした。


ノワは壁によりかかったままその場にへたりこんだ。
床は、痛みを催すほど冷たく感じた。


「··········」


おもむろに床を見つめる。
落ちた影は、頼りなかった。

(失敗しちゃった)

それなら、次の作戦を練るまでだ。
誰もすんなり成功するとは思っていなかった。

言い聞かせるのに、胸の奥がズキズキと痛む。

他の人間にあんな視線を向けられるなら、多分なんてこと無かった。
きっと、やり返してやるくらいの覚悟ができたはずだ。

扉の向こうから何度か名前を呼ぶ声がした。
返事をしようとするが、声はカスカスで、1文字つぶやくことさえ困難だった。


イアードに完全に嫌われたんだ。


「·····ノワ様?」









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