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《281》アンナ
しおりを挟む彼らはノワの姿さえ目に入らぬような慌てぶりで、廊下を走ってゆく。
「何かあったんですか?」
ノワが取り残された使用人達に聞く。
「ああ、どうしましょう·····!」
話しかけられたメイドは顔面蒼白だった。
「アンナが、ハシゴから落ちて、意識がないんです·····!私の代わりに仕事をして、それで!」
彼女は早口にまくしたてて、背後に倒れ込む。
ノワは咄嗟に彼女を抱きとめた。
「聖徒様!」
周りの使用人たちがざわめく。
アンナとは、恐らくメイドの名前だろう。
ノワは腕に抱えた女性を他のメイドに任せ、そばにいた召使いを振り返った。
「ハシゴから落ちた女性の元へ案内してください」
「し、しかし彼女は酷い状態で、偉大なる聖下の目には、とても、あの·····」
「早く!」
男の声を遮り、ノワが案内を促す。
待機していた召使いはびくびくしながら廊下を進み始めた。
城の裏側に人だかりができていた。
囲まれていたのは若いメイドだ。彼女の脚はおかしな方向に折れ曲がり、後頭部からは血が流れていた。
「聖下が何故ここに?」
「見世物じゃないのよ·····!」
不審そうな視線が絡みつく。
「どいてください!」
「ですが、聖徒様·····」
ノワは使用人達を掻き分け、地面に寝転んでいる少女の前に跪いた。
躊躇っている暇はない。
周りの雑音を遮断する。
患部に手をかざし、マナを込めることに集中する。
「みて、あれ·····!」
高い女性の声が呟く。
「傷が、塞がっていく」
ノワは彼女の片足を持ち上げ、ゆっくりと元の方向へ戻してゆく。
患部にマナを込める治癒は、外傷を塞ぐのが目的だ。これだけでは内傷を癒すことは出来ない。
「う·····っ」
アンナがゆっくりと意識を取り戻す。
彼女はこちらを見上げ、呆然としたあと、ハッと目を見開いた。
「聖──」
「まだ動いちゃだめだよ」
安心させるように、できるだけ優しく話しかける。
骨と肉を修復しなければいけない。
ノワは彼女を見つめた。
「口付けを許してくれますか?」
「へ·····?」
問いかけるが、彼女は混乱状態だ。
「君にキスしていい?」
分かりやすく砕けた口調で問いかける。
青い顔に汗が浮かぶ。どうやら言葉は伝わったようだ。
アンナは一瞬視線をさまよわせ、頷いた。
ノワは彼女の唇を掬った。
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