【完結】悪役令息に転生した社畜は物語を変えたい。

亜依流.@.@

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《274》筆跡

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手を伸ばそうとすると、鋭い声に咎められた。


「····申し訳ありません」


どうやらこのまま見てみろということらしい。
レハルトは紙切れと手紙を交互に確認した。

「そっくりと言いますか、同一人物の筆跡にしか見えません」


紙切れに書かれていたのはよく分からない単語だった。
誰かの名にしても変な羅列だ。


「確か、今の時期くらいに咲く小花の名前です」

「花?」


そういえば、初めて言葉を交わしたときも庭園にいた。
今日も庭に来てから、多少表情が明るくなった気がする。
陶器のような頬に血色が滲んだのを思い出す。イアードは内ポケットに手紙をしまった。


「花言葉は"真実の愛"。あとは····」


「はっ」


イアードは全て聞く前に、それを鼻先で笑い飛ばした。
責務は果たさず、下らない思慕で頭がいっぱいというわけだ。


「きっと、この文字を書いた方にお聞きになったんじゃないでしょうか?」


ノワには初めから期待していなかった。
初めの印象は、フィアンが溺愛している女男。こちらに畏怖の視線を向ける瞳も気に食わなかった。

───いや、初めは違った。

まるで案ずるかのようにこちらを覗き込み、しかし直ぐにフィアンに手を引かれ、人混みの向こうへ姿を消した。

イアードは軽く首を振る。
あれは、皇帝の盾に隠れ、姑息な嫌がらせをしてくるような奴だ。


「そういえば先日の宮殿での発狂、聖徒様のものでしたよ」


レハルトが思い出したように言う。
イアードは邸の中へ向かい、歩き出した。


「裸のまま部屋から逃げ出そうとしてるところに鉢合わせたんです。半泣きでしたし、恐らく情事が嫌だったんじゃないですかね?」

「···············」

「お裸があんまり美しくて、見惚れ──」

「おい」


話し続けていたレハルトは、言葉を飲み込んだ。
赤い瞳が、目の端でこちらを一瞥する。こんな視線を自分が向けられるのは、酷く久しかった。


「曲がりなりにも、アレは聖下だ。口を慎め」


レハルトは詫びながら、理不尽な主人に首をすくめる。


(ご自分は"アレ"なんて言ってるくせに)


寝室に戻ったイアードは、さっさと服を脱ぎ捨て、浴室へ向かう。
湯を被ると、謎の不快感が和らぐ気がした。

聖徒は、フィアンを盲目的に慕っているともっぱらの噂だ。
何故今更行為を拒んだのだろうか。
もしや、彼はまだ───。


「·····馬鹿馬鹿しい」


そんなわけが無い。
もとより彼が誰とどうあろうが、自分には関係ない。








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