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《267》皮肉
しおりを挟むその割には随分若いが、きびきびとして潔癖な雰囲気は、上品な威厳を感じさせた。
「ご案内致します」
バンスが歩き出す。
ノワは彼の後に続き、城の中へ足を踏み入れた。
「大公様が心待ちにしておられました」
バンスはにこやかに言った。
緊張が伝わってしまったのだろうか。
彼の言葉は世辞ではないだろう。
しかし、そこにイアードの想いは一切ない。イアードは体裁のため、大嫌いなノワに仕方なく話題をもちかけたのだ。
その証拠に、彼はノワを出迎えには来なかった。
「大公爵様は相当お忙しいんですね」
案の定レイゲルが皮肉を言う。
「このようなお出迎えになってしまったこと、大変申し訳ありません」
バンスの言葉には間があった。
まるで、一瞬何かを躊躇うような目は、すぐに穏やかな表情に埋もれてしまった。
嫌われているのはわかっている。
しかし、彼の様子は、それとは少し違うわけがあるようにも見えた。
やがて大きな扉の前にたどり着く。
「騎士様は扉の前でお待ちください」
バンスが扉を二度ノックしした。
「ノワ教皇聖下がお見えになりました」
返答はない。
しかしバンスは、数秒待った後、堂々と扉を開いた。
「さあ、中へお入りください」
ノワは一瞬、足を止めた。
扉の向こうから、背筋の凍るような冷気を感じる。
それは普通の人間には感じることの出来ない、所謂、聖徒にだけ感知できるマナだ。
ノワは恐る恐る部屋に入った。
「聖下にご挨拶申し上げます」
薄暗い部屋だった。
獣のように鋭い瞳が伏せられる。長いまつ毛が、赤い瞳に沈むような影を作った。
何度見ても、おぞましく美しい顔だった。
イアードは高い腰を軽く折り、ノワの手の甲へ頭を垂れる。
唇は振れなかった。
「お出迎え出来なかった無礼を、どうか御寛恕ください」
ノワは思わず後じさりかけた。
(·····あれ?)
この前よりも、顔色が悪く見える。
じっと見つめていると、赤い眼と視線が絡み合った。
(こんなものを纏って、どうして彼は、何ともないんだ?)
そして、一体どんな禁忌を犯せば───。
「───それで、民の前に出ての挨拶は取り止めましょう。聖下のご来訪は、今夕公文にて公開させていただきます」
冷たい声が、朗読するように告げる。
あまりに物々しい気配に囚われ、最初の方を聞き逃してしまった。
「駄目です。国民の方々には、しっかりお顔を合わせて、お話をしないと」
そうでなければ溝は深まるばかりだ。
向かいに座った相手は、長い足を持て余すように交差させた。
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