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《260》密会
しおりを挟む根負けしたのはノワの方だった。
ノワとて、デリックに会えて嬉しかった。デリックもノワの思いを心付いていたようで、うんと頷くと、とろけるように微笑んだ。
少し大きめのベットは、二人くらいがちょうどいい。
羽毛に潜り込むと、すぐに優しく抱きしめられた。
デリックは取り込む時の洗濯物の匂いがした。
「もう自分のことを傷つけたりしていない?」
「ノワくんがやめて欲しいと言うのでしていません」
「食事も摂ってる?」
「はい、ノワくんの言う通り残さず食べてます」
「·····体調とか、気分は·····」
「ノワくんがいるのでとても良·····」
ノワは耐えきれず、デリックの口元を塞いだ。
「ちょっと、待って」
なんだ、この恥ずかしい生き物は。
デリックの口がもごもごと動く。これもこれで恥ずかしくて、ノワはすぐに手を離した。
「鼓動が、背中まで振動しています」
「えっ」
慌てて離れようとすると、腰を強く抱き寄せられた。
彼の腕の中にすっぽりおさまってしまう。
降参だ。ノワは焦げ茶の癖毛を撫でた。
「僕のことばっかじゃなくて」
親離れできない雛のようだ。
少し可愛い。
自分よりもずっと体格の良い男にこんなことを思うのは、おかしいかもしれないが。
「できるだけ沢山ノワくんが欲しいです」
デリックは譫言のようにこぼした。
「触れるのも、目に映るのも、全てノワくんならいいのに」
傷跡の増えた手が、やはりこちらを真似るように、ノワの髪を撫でる。
可愛いというのは撤回する。
「デリック、もう寝よう」
彼は駄々をこねるように首を振った。
「朝になってしまいます」
「あ、朝になっちゃうから、寝るんだよ」
恥ずかしいことばかり言う彼は、早く寝かしつけなければいけない。
額に鼻先が触れた。
「ずっと、隙間なんてないくらいにくっついていたい」
すぐ目の前に形の良い唇があった。
さらに抱き寄せられ、彼の腕の形に体が歪む。熱い手がノワのシャツをたくしあげた。
「いっそひとつになれればいいのに」
視線を逸らすと、確かめるようにそっと唇を塞がれた。
「·····っ」
ノワは咄嗟に首を振る。
少し重なった温もりが、肌寒い室温をひきたてた。
「ノワくん·····」
デリックは宥めるように言って、ノワの肌に口付けを落としていった。
「·····もっと触れても、いいですか?」
「·····っ」
肯定はせず、否定もしない。
それが返事のようなものだ。
羽毛の中で、心地良い温もりがうごめく。
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