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《250》意地悪な義弟
しおりを挟むノワは思わず震え上がり、それでも、眠っている振りを続けた。
(起きてること、気づかれてる?)
いや、気づかれて困るのはアレクシスの方のはずだが、いつの間にかこっちがいけない事をしている気分になっている。
「兄さん」
彼が再び呟いた。
セクシーな低音がむず痒い。
(バレて、ない·····?)
良かった。
ほっと胸をなで下ろした時だった。
「ひぁん」
耳たぶに吸いつかれ、情けない声が漏れる。
努力が水の泡になった。
目を見開いた先に色素の薄い瞳があって、その1秒後、扉が叩かれた。
「·····」
先に視線を逸らしたのはアレクシスだった。
彼はさっさと立ち上がり、扉の方へ向かってゆく。
「えっ」
まさかそのまま出るつもりなのか?
一瞬焦るノワだが、アレクシスのスラックスにはシワひとつなく、ベルトもしっかり閉められている。
ノワはからかわれていたことに気がついた。
アレクシスは、やってきた召使いと二言三言話し、再びこちらへ戻ってきた。
「お目覚めですか。ご気分はどうですか?」
白々しいにも程がある。
「アレク·····!」
ノワは何度か口を開閉した後、黙りこくった。
「さっき自慰してるかと思ってびっくりしたのに」───なんて言えるわけが無い。
弟の股間事情を気にしたのは、これで3回目だ。
「まだ寝ていてください」
せっかく起き上がったのに、肩を押されて仰向けにねころがる。
羽毛をかけられてしまった。
「アレクがせっかく会いに来てくれたのに」
アレクシスは、最近少し忙しいようだ。
ノワに変わって、次期当主として既にほとんどの仕事を引き継いでいる他、後継ぎをする前から目指していた医学も学び続けているという。
そして去年、驚異の速さで医学試験に合格した彼は、現在皇室かかりつけ医、ホートン伯爵家次男ジェレミーの元で、研修医として弟子入りを果たした。
「すごく忙しいでしょ」
昼間は研修医として、日が暮れてからは、伯爵家の後継ぎとしての仕事をする。
それもホートン伯爵と言えば、弟子を置かないことで有名だ。アレクシスの才能を買って迎え入れたとするなら、手塩にかける分指導が厳しくなるのは目に見えている。
「初め、弟子入りを断られました」
アレクシスが羽毛を整えながら言う。
「伯爵家を次ぐ者である上に、聖女様のおかげで、貴族の医者に高等技術は最早必要ないと。でも俺は、優秀な医師になる必要があったんです」
冷たい手が額に触れた。
気持ちいい。瞼を細めると、こちらを見つめていた鋭い瞳が、いくらか柔らかくなった気がした。
「兄さんは誰もを治癒できますが、自分自身を治療することは出来ないでしょう」
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