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《240》美しい人

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クララは、窓の向こうを眺めた。
ノワは一目惚れだった。
恋とは少し違う。どんなお人形よりも美しい人を、初めて見た。
そんな彼が、初めて自分の趣味を理解し、肯定してくれた人だった。


「ノワ様、私に仰ってくださいましたね」


『何かを好きなことに、悪いことなんてないよ』


「ああ、あれは·····」


ノワは、半ば自分に言い聞かせるように、クララに告げたのだ。

乙女ゲームや少女漫画が好きだった。在り来りなラブストーリーやイケメンが大好物で、しかし、そんな趣味を他人にはおろか、家族にさえ言うことは出来なかった。

きっととても勇気のいることだっただろう。
すまし顔のクララが、指先を見つめながら告げた話を、何としても肯定してあげたかった。


「ノワ様、私もう、お人形を集める必要が無くなったんですの」


クララは今日一華やかな笑顔を見せた。


「え、どうして?」


「ノワ様に出会ったからですわ」


もうたくさんの人形なんていらない。


「今までこの地位に苦しめられた分、今度は利用してみせるの。ノワ様とずっと一緒にいられるように!」


一方ノワは、年下の少女に口説かれ、タジタジだった。
しかし妹ができたみたいで嬉しい。
よしよしと頭を撫でる。クララは数秒間意識を飛ばした。


「ゴホン」


不意に、扉の方から咳払いが聞こえた。


「ノワ様、そろそろ」


時計を見やったロイドが告げる。その隣では、レイゲルがニコニコしながらこちらを眺めていた。
今日は、予定が詰まっているのだ。


「お会いできて光栄でしたわ」


彼女はやってきた時と同じく、恭しく礼をした。


「またお会いしましょう」


花のような笑顔に笑い返す。クララはしばらくうっとりしてから、思い出したように両手を叩いた。


「ノワ様が尊敬している方はいらっしゃいますか?」


「尊敬·····」


そんな人は沢山いる。
例えば、自分なんかよりも、クララのほうが余程立派だ。


「うーん·····フィアン様や、」

「ええ?なぜですか?」


言い終わらぬうちに聞き返された。


「陛下は素晴らしいお方ですが、ノワ様を束縛するから嫌ですわ。『お前は俺のもの』とでも言いたげな、あの高圧的な感じとか·····」

「あー、クララ、時間が!」


ノワは慌てて彼女の発言をさえぎった。
先程も思ったが、さすがユージーンの妹なだけある。物怖じしない。

それにしても、フィアンが自分に拘っているなんて、彼女は何を勘違いしているんだろう。











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