【完結】悪役令息に転生した社畜は物語を変えたい。

《２２９》たくされた未来

「お二人のお洋服が·····」


フィアンとノワの身につけている服はついになっていた。
誰が見ても揃いのものだと分かるデザインだ。
式典に必ず着てくるようにとは言われていたが、まさかこういうことだったなんて。


「帝国の未来に」


フィアンがノワに微笑みかけ、祝杯を掲げる。
式典には様々な祝儀が送られた。その中には、金と紺黒を基調とした装飾品や絹織物が多々見受けられた。
ノワはそれらを見る度、困惑したようにフィアンを見上げた。


「ノワ」


フィアンがノワを呼び、グラスを傾ける。
国民たちの期待の視線は、一心にこちらへ向けられていた。

帝国内の人間と聖女が結ばれると、国には数百年の栄光がもたらされる。代々国に伝わる言い伝えだ。

現在帝国では、聖徒であるノワとフィアンの熱愛が噂されていた。
そしてそれは、フィアンの態度から、核心へと変わりつつあった。


「皇帝陛下、万歳！」

「教皇聖下、万歳！」


賓客たちが口々に2人を称え始める。


「皇帝陛下、万歳！」

「教皇聖下、万歳！」


奨励は段々と大きくなってゆく。
会場内が期待の声に包まれた時──突如、閉ざされていた入場口が、勢いよく開け放たれた。
人々はしんと静まり返った。

黒一色に身を包んだ男だった。
彼は周りの注目など気にもとめず、悠然と会場内を進み、適当な場所で立ち止まる。


「大公殿下·····」


フィアンの義弟であり、戦において大きな功績を残した国の英雄。
彼はフィアンの王位継承時と同時にシュテルン大公爵位を叙爵し、現在の大公国である領地を与えられた。

周囲は静かにざわつく。
祝いの席に黒を着てくるのはタブーだ。
しかし、貴賓は、誰一人として彼を咎めることは出来なかった。

シュテルン大公爵イアード皇子。
この広い帝国で、二番目に偉い男。そして、ノワの契約上の三人目の夫だ。


「帝国の女神にご挨拶申し上げます」


近づいて来た人物が、ノワの前で恭しく礼をした。
柔らかなくせ毛が揺れる。
ノワは思わず、口元を綻ばせた。


「キ·····伯爵」


彼は慣れた手つきでノワの手をとり、再びかがむ。
甲に柔らかな温もりが触れた。

教皇でありながら、女神の写し聖女であるノワへの敬拶は、手の甲へのキスが規準とされている。


「ご慈悲を」


長いまつ毛が伏せられる。
こんなところばっかりゲームの設定通りなのは、最早感服する他ない。
ノワは彼の両頬に口付けた。
学生の頃と変わらぬコロンの香りがした。


「ふふ」


キースがじっとノワを見つめる。