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《228》舞台
しおりを挟む鋭い三白眼がノワを見下ろし、仕方なさそうに眉を下げる。
こういう表情をされる時、ノワは学生の頃と同じように「すみません」と言いかける。しかしそうすると、彼はさらに眉を顰めるのだ。
「ごめん·····」
「あ、また怖がらせてる」
レイゲルがケラケラ笑った。
「ロイドは過保護なんですよ」
彼はノワに片手を差し出し、パチリとウインクする。
「ノワ様が拐われた時のことがトラウマで」
「レイゲル」
唸るような声がレイゲルを戒めた。伸ばしかけたノワの手はロイドにとられ、レイゲルの手には、代わりに本の束が乗せられる。
「お前はノワ様の部屋にそれを置いてから来い」
レイゲルは呆気に取られてから、やれやれと肩をすくめた。
「エスコートがロイドで、心細くないですか?」
皇帝陛下即位三周年記念式典。
ノワは今日、国中の貴族が招待される大規模な舞台に、フィアンのパートナーとして出席する。
「いいえ、心強いです」
ノワはにこりと微笑んだ。
「では行きましょう」
満足気に頷いたロイドが、ノワの手の甲に口付けする。
未だに慣れない。ノワは慌てて目を逸らした。
「ああ、もう·····ノワ様、直ぐに向かいますからね」
レイゲルは言うが早いが、本を抱えて階段を駆け下りてゆく。
転ぶと危ないから、ゆっくりでいいのに。そう言いたかったが、声をかけそびれてしまった。
ノワが目を覚ましてすぐ、たくさんの騎士が彼の近衛騎士を志願した。ロイドとレイゲルもその一人だ。
二人は実力試験の結果から、晴れてノワの近衛騎士に抜擢されたのだった。
「ノワ様、急ぎましょう」
ロイドが前を見すえたまま言う。
目を覚ました自分を強く抱き締めてくれたのが、まるで昨日のことのようだ。
ノワはロイドに手を引かれ、会場への道を急いだ。
「この先に陛下がいらっしゃいます」
扉の前で、ノワはそっと深呼吸した。
向こうから、大勢の気配がする。待機していた召使いが合図をすると、すぐにノワの到着を告げるアナウンスが流された。
《教皇聖下のご入場です───》
両扉が開け放たれると、溢れんばかりの光が広がった。一度瞼を細め、再び目を開いた先に、優しく微笑むフィアンがいた。
大きな歓声と拍手が沸き上がる。
ノワはロイドからフィアンへ引き渡され、二人は周りの貴族たちの喝采を浴びながら、会場の中央へ進んだ。
「今日のめでたい舞台に彼と立つことが出来たことを、幸運に思う」
フィアンがノワの肩に手を置く。
「まあ」
どこからともなく、黄色い囁き声が上がった。
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