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《180》はじまり
しおりを挟む神殿は、襲撃にあったかのように崩壊していた。
階段を二段飛ばしで駆け上がり、真っ白な空間をひたすら進む。
祭壇の前に、人が倒れていた。
「·····。」
行方不明になっていたドニス・ルフォモント博士。約10年前、王都一の医学者でありながら、禁忌の薬作りに手を染めたとして投獄された科学者だ。
彼は、何者かの手助けによって脱獄し、以降姿をくらませていた。
ドニスはついに、禁忌薬の発明に成功したのだ。
(用済みになって、殺されたか)
イアードは、元来た道を早足に進む。
一刻も早く王宮に戻り、このことを報告しなければいけない。
神殿に反逆の目論見があったことは、すぐに明るみに出るだろう。
「殿下!」
レハルトの叫び声と共に、顔の横を短剣が飛んでいった。
こちらに剣を向けているのは、レハルトを除く十数人の部下たちだ。
彼らはゆらゆらと動きながら、レハルトとイアードを取り囲む。
皆目は虚ろだ。
どうやら、遅かったようだ。
「·····。」
イアードは鞘から剣を引き抜いた。
騎士たちも、神殿からの配給品を口にしたのだろう。
「一体、これは·····」
「レハルト」
操られた部下に囲まれる中、二人は背中を合わせた。
「俺は先に王宮へ向かう。こいつらを殺さずに処理しろ」
足止めをくらっている暇はない。
イアードの命を受け、レハルトは剣を構え直した。
「仰せのままに」
騎士たちが一斉に襲いかかる合間をぬけ、剣を交わす。イアードはそのまま待機していた馬に飛び乗った。
「はっ!」
限界まで馬の速度を上げてゆく。
宮殿にはあのクラスメイトもいるだろう。
これは、虎視眈々と準備された反逆の幕開けだ。
(無事でいろよ·····)
焦りは、短い舌打ちとともに噛み殺した。
高い女の悲鳴が聞こえた。
続いて、地面が揺れる程の大きな振動と、ガラスの割れる音が響く。
再びふれあいそうになった唇が、ピタリと動きを止めた。
「·····様子を見てくる」
フィアンが会場へ向かう。
ノワは彼の消えた扉を呆然と眺めた。
そして、すぐに我に返る。
その場にへたりこみそうになり、ぶんぶんと首を振る。
ものすごい騒音だった。一体何があったのだろうか。
フィアンの後を追って走り出そうとしたノワの首元に、冷たいものが当たった。
「今晩は、聖徒様」
闇に囁いたのは静かな声だ。
「!?」
振り上げた肘は、いとも簡単に受け止められる。
背後の人物は、慣れた手つきでノワの両手首を縛り付けた。
「どうか大人しくしていて下さい。私も、あなた様を傷つけたくは無いので·····」
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