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《149》愚図
しおりを挟む「───ぷはっ!」
駆けつけてきたデリックが、呆然とこちらを眺めていた。
「うわあああ」
ノワはリダルを突き飛ばし、滅茶苦茶に暴れる。
身体中に巻きついた触手の死骸が床に転げ落ちた。
「ノワくん、大丈夫で───」
「お前!」
駆け寄ってきたデリックはリダルに勢い良く胸ぐらをつかまれた。
「『大丈夫ですか』じゃねえだろうが!何もせず突っ立ってたのか?叫び声が聞こえなかったのかよ?!」
「リ、リダル?!」
殴りかからんばかりの怒号だ。
ノワは彼の腕を掴んだ。
「やめて!」
「邪魔すんな」
「あっ」
簡単に手を振り払われてしまう。
「··········」
デリックの表情は複雑だった。
何かを悔やむように、しかし憎らしそうにリダルを睨み返している。
(なんで、こんなに怒ってるんだ?)
ノワはヒリヒリと痛む手を握りしめた。
後ろから見たリダルの背は、怒りを鎮めるように上下していた。
「デリックは、何も悪くないよ。僕が用足してくるって言ったから·····」
「この愚図のこと、庇うんだな」
先程触れ合った唇が、嘲るように口角を引き上げた。
「愚図って·····!」
「馬鹿馬鹿しい。ずっとやってろよ」
リダルが吐き捨てるように言う。長い足は岩を飛び越え、すぐに姿が見えなくなった。
ノワは動かなくなった生物を見下ろした。
緑色の皮膚に、亀裂のような模様、無数の腕。
イラストとは少し違うが、ドゥジーヤで間違いないだろう。
「デリック、大丈夫?」
「いえ、ノワくんの方こそ·····」
デリックがポケットに手を突っ込む。
「あの·····良かったら、これ」
彼が取りだしたのは、紺のハンカチだった。
「唇、拭いてください」
「へ?」
口移しを目撃されていたようだ。ノワは若干の気まずさを感じながらも、大丈夫と首を振った。
相手だって仕方なく口をつけたのに、助けてもらった方が口を拭うなんて、流石に態度が悪すぎる。
「でも·····」
「大丈夫!行こう」
ノワは先に歩き出した。
「ノワくんが、汚れてしまいます」
絞り出すような声が呟いた。
(汚れ·····?)
背中を汗が伝う。
漠然と、嫌な雰囲気がした。ふつふつとマグマが沸きあがるような、それにしては冷たい空気だ。
ノワは聞こえないふりをした。
岩の間をすり抜け、早足にリダルを追う。
「リダル!」
「··········」
広い背中が立ち止まった。
「助けてくれて·····」
ありがとう。そう言いかけて、口を閉ざす。
鋭い岩場。向こうは雲ひとつない空と、どこまでも続く崖。
この景色は、ゲーム内のシーンで見たことがある。
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