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《133》下着

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「そっか。実は僕も上がったところだったんだ。熱くって、これしか着てない」


『これしか着てない』とは。下着はどうなんだ、下着は。油断すると沸きあがる邪な疑問を脳内で殺す。

学園に来てからというもの、ノワの言動一つ一つに振り回されている気がする。

しかし、今日はそうはいかない。
一つだけ、彼に何でも頼み事をすることが出来るのだ。
知らず知らず喉が鳴る。

焦ってはいけない。


ノワがダイニングから戻ってくる。
片手には氷と紅茶が入ったピッチャーを持っていた。



「アレク、甘くないのが好きでしょ?」

「はい」


へへへと笑い、彼はグラスを手渡してきた。

何がそんなに嬉しいのだろう。受け取ると、ベッドに腰かけた相手がポンポンと隣を叩いた。


「アレクここ」


机の椅子には、天高く本が積まれている。
長い間椅子としての機能をはたしていないらしい。


「俺は床でいいです」


「き、汚くないよ?いつもお風呂に入ってから寝てるし、ヨダレも垂らしてないし·····」


何を勘違いしたのか、彼はしどろもどろに弁解し出す。

汚いから嫌だなんて、一言も言っていない。理性を保てそうにないから、こちらから断ってやっているというのに。

彼の中で、自分はどれだけ冷徹な弟なのだろうか。

──いや、いつでも冷たくあしらってきたのだから、そう思われて当たり前だ。

胸の奥が微かに痛んだ。


「·····失礼します」


アレクシスは渋々ベッドに腰掛けた。
気分を落ち着かせるように、部屋を見渡す。部屋の端に、学園指定のボストンバッグがあった。


「合宿の準備ですか?」

「うん、明後日から」


ノワは答えながら、紅茶にシロップをまぜる。

加えた数は三つ。機嫌が良さそうに飲み干してゆく口元から、溢れた紅茶が伝った。

水滴は、首筋を滑り、シャツの中へと入ってゆく。

同室のキースがいる時も、こんな風に無防備な姿を晒しているのだろうか。
心配だが、それを聞く勇気もない。

自分はいつでも天邪鬼だ。

想いを気づかれるのが怖くて、冷たく突き放してしまう。そのくせ、彼の意識が他人に向くだけで、嫉妬に狂ってしまいそうだ。


「それで、して欲しいことって、なに?」


視界の端で、生脚がパタパタとはしゃいでいる。

本当は、抱きしめてくれる彼を抱き締め返したい。
ずっと自分だけに微笑みかけて欲しい。

けれど、自分を愛してくれるノワを失うのが、怖かった。


「触れたいんです」


引っかかるような針の音が遠くなった。


「触れ····?」

「あなたに触れたいんです」


横取りされるくらいなら、最低な男に成り下がっても構わない。

可哀想な弟のフリをして、彼の同情を利用する。自分にはそれが可能だ。


「ええ、くすぐりとか?」


ノワはいかにも嫌そうな顔をする。


「違います」


幼稚な発想さえ可愛らしく思えてしまうのだから、これはかなりの重病だ。
アレクシスは半ば呆れながら首を振った。


「あ·····」


一方のノワはハッとした。

見た目こそ立派な青年だが、彼とてまだ家を出たばかりの十七歳。
帰省を目前にして、家族の温もりが恋しくなったに違いない。










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