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《115》待ち伏せ
しおりを挟む不自然なほど素直だ。
「うん、じゃあ·····」
彼から離れ、水飲み場へ向かう。
しかし、いつまで経っても影が離れない。ノワはそっとデリックを振り返った。
何か言いたげに、しかし気を使うように後ろを着いてくる姿は、まるで大型犬のようだ。
「コンラッドくん、何か用?」
素っ気ない口調になってしまったが、相手はなぜか嬉しそうな顔をした。
「俺の名前、知っててくれたんですね」
ノワが水飲み場の前で立ち止まると、彼はやはり同じようにピタリと足を止める。
また敬語に戻っている。なんせお前は目立つからだとは言えず、ぬるい飲み水を一口含む。
「·····うん、クラスメイトだし」
デリックは食い気味に頷いた。
「そうなんです!俺たち、同じクラスだって·····」
知っててくれたんだ、としりすぼみにつぶやく声は、どこかの劇団役者でも務めていそうなほどよく通る良い声だ。
「敬語の方が話しやすいの?」
「あっ···すみませ···ごめん」
冷たい声音に気づいたのか、彼はしゅんと項垂れる。
良心が痛み、ノワは軽く首を振った。
「好きな方でいいよ」
「!あ···ありがとう」
「·····」
しばらく黙ってみるが、彼は話しかけた理由を切り出さない。
もう一度促そうとしたところで、甲高い笛の音が鳴った。
どうやら休憩時間が終わったらしい。
「またあとで」
ノワは練習場へ駆け出した。
「あ·····」
背中に、未だひりつくような視線を感じる。
変な奴だ。
ノワはしばらく後ろを振り返らなかった。
ヒロインは一体どこにいるのだろうか。
何度も浮かび上がった疑問は、未だ解消されない。
ここ最近変わったことといえば、あのデリック・コンラッドとの関係だった。
初めて言葉を交わした剣練部終了後、彼は早くに支度を終え、ノワを待っていた。
告げられたのは、予想外な発言だった。
「パトリックくんと仲良くなりたいんです」
そう言って、彼は勢いよく頭を下げた。
「えっと·····言いたいことって、それだけ?」
拍子抜けするノワに、デリックは何度も頷く。それ以降、彼はことある事にノワへ話しかけるようになった。
おかげでノワに付けられたあだ名は"猛獣使い"だ。
フランシスはというと、あの日を境に多少大人しくなったようだ。
ただ、彼はノワが臨時監督を務めている間、気付けば半径10メートル以内にいることが多い。
単なる偶然だと思いたい。
5月中旬、現在のノワは他人の心配をしている場合ではなかった。
授業を終え寮棟に戻ったノワは、門の前に1人の生徒を見つけた。
あの美青年は何者だ?ああ、僕の弟アレクシスじゃないか。自問自答しながら、ノワは彼へと駆けていった。
「ノワ先輩」
アレクシスはノワを他人行儀にそう呼んだ。
学園のルール故、仕方がない。性ではなく名前で呼ばれただけマシだと思おう。
ノワはアレクシスに笑いかけた。
「アレク、どうしたの?こんなところまで来て····」
全て話し終わる前に、アレクシスがノワの腕を掴んだ。
「えっ」
「今、お時間良いですか」
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