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《112》歓声
しおりを挟む「な·····っ」
ノワは目の前に立ちはだかっていた。
剣を構え、立ち上がろうとする。
脚を、手首よりもずっと強い痺れが襲った。
「まだだ!まだ勝負は──」
「勝負ならとっくについている」
ドスの効いた声がフランシスの叫び声をかき消した。
「ウォルター教官·····」
課外活動から戻ってきたロイドだ。
新入生たちがわらわらと道を開ける。
ロイドは大股でフィールドの中央へやってきた。
鋭い三白眼がノワを見下ろす。
ただ臨時の監督を任されただけなのに、勝手なことをしすぎてしまった。
ノワの顔はサッと青ざめた。
「ご、ごめんなさ·····」
「良い判断だった」
大きな手がノワの頭に乗せられ、直ぐに離れてゆく。
大勢の部員がフィールドを取り囲む中、フランシスはロイドに連れられ、その場を去っていった。
数秒後、闘技場には歓声が湧き上がった。
「先輩凄いです!必死に追っても見失うほど軽い身のこなしでした!」
「どうすればあのような動きができるのですか?」
「ぜひご指導ください!」
新入部員たちの勢いに押され、ノワは辛うじてはにかむ。
もっと強くなりたい。リダルに助けられた日からさらに強く願うようになったことだった。
彼らもまた、それを強く望んでいるのだ。
自分の出来ることなら、彼らの力になってやりたい。
部員たちは元気な返事をして、早速練習に戻っていった。
気づけば、他学年の部員たちもこちらを見ていたようだ。
ノワと目が合った同級生が親指を突き立ててみせる。
無意識のうちに探したのは、太陽の下でも真っ黒な黒髪の持ち主だった。
彼の目に、自分は少しでも成長して映っただろうか。
あの日、他人を守れるようにと言ったノワを、リダルは心底可笑しそうに笑っていた。
バカにする訳でもなく、ただまるでこちらが本当に変なことを言ったかのように、腹を抱えて笑っていたのだ。
悔しいのと同時に、屈託のない笑顔が不思議で忘れられなかった。
「パトリック先輩」
名前を呼ばれ、意識を引き戻される。
「·····先程は、出しゃばった真似をしてしまい申し訳ありませんでした」
目の前で立ち止まった青年が勢い良く頭を下げた。
太い首元にはじんわりと汗が滲んでいる。
謝らないで、ありがとう。そう言えば彼の言動が正しかったと肯定することになってしまう。
しかし、彼の存在に助けられたのは、事実だ。
「顔を上げて」
彼は2秒後、ゆっくりと顔を上げた。
こちらの表情まで強ばってしまいそうなほど、精悍な顔つきだった。
「オスカーは、一生懸命で、真面目なんだ」
青い瞳は、こちらを見すえたまま動かない。
少し、偉そうだったかもしれない。ノワが心配する一方、オスカーは、告げられた言葉をゆっくりと噛み砕いていった。
"マニュアル通りにしか動けない機械のようだ。それも、適当に力を抜くことが出来ず無駄な労力を消費する旧型の機械だ。"
ある者は、自分をそう言った。
人間らしい感情は表に出してはいけない。人の上に立つものはいつでも厳格で正しくなければいけない。
目の前の上級生に、自分は、一生懸命な人として映っているのだという。
今までの自分の概念を崩されたような衝撃だった。
「待って下さい」
「·····?」
持ち場に戻ろうとしたノワは、オスカーに引き止められる。
何かを決意したような表情は、先程より生き生きとしていた。
「パトリック先輩を俺の目標にしたいんです」
「·····僕を、目標に?」
「はい」
迷いなく返事をした声が続きを紡ぐ。
「最優秀賞に選ばれたら、パトリック先輩を下の名前で呼ぶこと、許していただけますか?」
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