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《74》捜索
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ノワの捜索は、帝国騎士団の下、一晩中休むことなく続けられた。
馬車に戻ったユージーンが椅子に散らばった粉末に気付いたのだ。公爵家の護衛軍が近辺を捜索するも、ノワの姿は見当たらなかった。
捜索の協力依頼を受け、剣大会は第一皇子であるフィアンの命により中止となった。
王族主催の国の催しは余程がない限り取りやめになることが無い。暫くすると招集された帝国騎士団の騎士たちの姿に、帰り際の客は皆驚きを隠せない様子だった。
「あの様子だと、誰かを探してるのでは···?」
「もしかすると、何者かが皇子殿下の暗殺を目論んだとか·····」
「なんと!そのような事は、考えるだけでもおぞましい」
会場を退いて行く来賓達が不吉な噂を立てる。
まさか大会が中止になった理由が招待状も持たぬ伯爵家子息の失踪だということは、誰一人として予想もしていないようだった。
「殿下!パトリック伯爵子息が·····」
日が登り始めた頃、ノワの無事は部屋へ駆け込んできた騎士によって告げられた。
ノワの迎えを言い付けたフィアンは深くため息を着く。こんなにも他人の身を案じたのは初めてだ。
ユージーンの言う通り、首輪でもつけた方が良いのかもしれないなんて、我ながら余裕のないことを考えてしまう。
控えめなノックの音が響く。
「入れ」
ゆっくりと開かれた扉から、見慣れた従者が顔を出した。
「皇太子殿下にご報告申し上げます。先程保護されたノワ様ですが·····」
彼は、言いにくそうに視線を宙へさ迷わせた。
王都に戻ると、武装した騎士の軍団は一斉にこちらへ敬礼した。
「?!」
彼らが身にまとっているのは誇り高き帝国騎士団の制服だ。
ユージーンの依頼で、皇族直々に騎士達へ捜索命令が下ったという所だろうか。
そう推測すると、彼らがノワに敬意を払う訳がうなずける。
(それにしても、妙に恭しい敬礼だ)
ノワは知り得無い。
自分を支え後ろに乗っている男が、帝国騎士団を率いるこの国の第二皇子だということを。
「奴隷商のアジトを発見した。第三部隊から人員を向かわせる」
あろうことかリダルは彼らに命令口調だ。
青ざめるノワ。対照的に、騎士たちは皆表情を崩さない。
彼らと話すリダルは普段とは違っていた。
偉そうな態度は相変わらずだが、振る舞いは人に指示をすることに慣れた者のようである。
リダルが馬を下り、ノワへ手を差し伸べる。
さり気無い気遣いは出来るようだ。
「ノワ様、第一皇太子様が謁見を望んでおられます。差し支えなければ、部屋へご案内する前に」
ノワを待っていたのは初老のバトラーだった。
型の古いスーツを着るのは、腕の良い使用人のみが許される正装だ。
フィアンとは闘技場でのやり取り以来顔を合わせていない。
「はい」
ノワは不安を噛み殺し頷いた。
バトラーに続き広い廊下を進む。誘拐や王宮への訪問。悪役令息に転生したことよりも現実でないようだ。
「どこ行くんだよ」
「!」
先程まで騎士達と言葉を交わしていたリダルが、いつの間にか後ろを着いてきていた。
彼はノワを助けた恩人だが、ここは王宮である。
好き勝手に足を踏み入れて良い場所ではない。下手をしたらそれだけで死罪だ。
「皇太子殿下にお会いしてくるんだよ···」
ノワは呆れ返ってしまった。
リダルはこちらの心情など露知らず、堂々と隣を歩き出す。
振り返ったバトラーは少し驚いたように目を見開いた。
「これは────」
「俺も行く」
(え?!)
何を言い出すんだと叫びかけ、口を噤む。
自分が言う必要は無い。このバトラーのオジサンに任せればいいのだ。
さあ、早くこの死神を城の外へつまみ出してくれ。ノワの希望は、呆気なく裏切られた。
「しかし·····」
男性はリダルの表情をうかがいながら、しどろもどろに言葉をつむぐ。
「では、頃合いを見て私から声をおかけしますので、暫く扉の前でお待ち下さい」
ノワは開いた口が塞がらない。
(どういうこと?)
リダルが素っ気なく了承の返事をする。
さっきのは聞き間違いか何かだろうか。ひょっとしてこの2人は知り合いで、バトラーのおじさんは何らかの弱みを握られているとか?
やがてノワは一際大きな扉の前で立ち止まった。
とんだ修羅場が待ち受けていることを、この頃のノワは知る由もないのだった。
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