【完結】悪役令息に転生した社畜は物語を変えたい。

亜依流.@.@

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《64》鞭打ち

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周りから注目を浴びれば、ロイドは自分を無視できなくなる。

ロイドからの好感度は確実に下がってしまっただろう。
それを知りながらも、ノワは彼を引き止めたかった。

肩を押す手は、未だに加減されている。
それが申し訳なくて、少し嬉しかった。


「いつからそんなに聞き分けが悪くなったんだ」


ノワは黙りを決め込み俯く。

暫くとせず、ロイドの手が離れていった。


「もう良い」


「·····?せんぱ·····」


彼が手を伸ばしたのは、自身のベルト。

角張った指が、ホルスターに取り付けられたポケットのボタンを外す。
ノワは驚いて彼を見上げた。

そこに収められているのは、体罰用の短鞭だ。


「パトリック、お前を甘やかしすぎたようだ」


冷たい声が告げる。

背を一筋の汗が伝った。


前世では、軍服を着たイケメンキャラが鞭をしならせるイラストなんかを見てときめいたりしていた。
が、自分がそれで打たれるとなれば、話は別だ。


「言いたいことはあるか?」


黒く細長い鞭が見え隠れする。

脅しではない。あれで叩かれれば、最悪皮が裂けるかもしれない。


「ご、ごめんなさい」


ノワは謝罪し、早口に言葉を続けた。


「僕の振る舞いが軽率でした·····」 


本来ならば、ここで口を噤むべきだ。

しかし、それだけでは終われなかった。


「·····でも!」


ノワは泣きそうになりながら、ロイドを見上げた。
打たれたって構わなかった。


「ウォルター先輩には、うわさとか、評判じゃなくて、僕自身と関わって、僕がどんな人間かをわかってほしいんです」


「俺には?」


低い声に飛び上がる。
ロイドはノワを見下ろし、眉をひそめた。


「それは今の話に関係ない」


「罰を受けます!でも、ウォルター先輩が僕と距離を置くつもりなら、僕はもっと悪い生徒になります·····!」 


勢いのまま叫び、シャツの襟元をにぎりしめる。


「は?」


人生初の鞭打ちも、ロイドにされるなら悪くない。

ノワは覚悟を決め、ボタンを外し始めた。
はだけたシャツから滑らかな肌が覗く。
3つ目のボタンを外したところで、薄ピンクの突起が顔を出した。

ロイドはノワの手を押さえつけた。


「脱ぐな」


柔肌が鞭で打たれる痛みを知らないことは、一目瞭然だ。

鬼教官が聞いて呆れる。
彼に鞭を振るうなど、到底不可能だ。

好きな相手を傷つけることなど出来るはずがない。

1人の後輩として接することなど、とうの昔に難しくなっていた。


「距離を置く?今度はなんの話だ」


「う、噂で知った僕に軽蔑して、これからは最低限関わらないつもりでしょう?それも、出鱈目な噂で·····そんなの、嫌です!」


「落ち着け」


ノワはハッとし、口を閉じる。


ロイドは呆れたように溜め息をもらした。

彼を戒める為、無理やり引っ張りだそうとした怒りは、すっかり息をひそめてしまった。


「···俺はお前を噂で判断してはいない。言動に気をつけろと言ったのは、お前を心配しての事だ」


上司の模範のような回答だ。

そうじゃない。言葉にできない思いを、唾液と共に飲み込んだ。

ロイドはイケメンロマンスの攻略対象キャラクターで、自分は彼に断罪される悪役令息。

ロイドに好かれなければ命が危うい。
それを知りながらも、嫌われるリスクをおかしてまで話を聞いて欲しいと思った。

悪役令息になりたくないからじゃない。
彼に理解されたい、そう思ってしまった。

初めこそ気に入られて死を免れようとしていただけなのに、いつの間にこんなにも彼に惹かれていたのだろうか。


「お願いします、僕の話を···」


ノワの瞳は震えていた。

この後輩は、罰を受けることよりも、自分にどう思われているかを気にしているという。
ロイドはため息をついた。


「言ってみろ」


厳しい口調が、発言を許す。


「噂は、全部嘘なんです!誰とも特別な関係なんかじゃないんです、本当に·····」


(あれ·····?)


ノワははたと口を止めた。
噂はあれど、それが嘘だという証拠はない。

いくら言い張ったって、結局真実を証明するすべはないのだ。

それを手放しで信じてくれなんて、我儘にもほどがある。
ノワは体の熱が冷めてゆくようだった。


暫く沈黙が続いた。

やがて口火を切ったのは、ロイドだった。


「お前の話を信じてやる」


あっさりと返ってきたのは、望んでいた言葉だった。


「·····?」


「話が終わったなら戻るぞ」













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