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《47》警備の仕事
しおりを挟む(だめだ、こんなこと考えちゃ、駄目に決まってる)
あくまでも彼は自分の推しだ。傍で役に立つのがこの上なく幸せで、それ以上など望んではいけない。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
どうしようもなくて頭を抱え込むと、重苦しいウィッグが頭からズレる。
感情に任せ、林に向かってそれを投げた捨てる。
「あ?!」
突如、暗闇から叫び声が聞こえた。
「んだよコレ····」
「!?」
ノワはびくりと震え上がった。
ガサリと揺れた木蔭から、黒い影が姿を現す。
「ニャア。」
「······························猫?」
いつかも見た事のあるような黒猫が、暗闇から姿を現した。
「ヅラか?」
「ね、猫が喋っ·····?!」
驚愕するノワをよそに、黒猫はこちらへしっぽを向け、出てきた方の木陰へと戻ってゆく。
視線で置うと、二足の靴が視界に入った。
「え?」
猫がすり寄ったのは、一人の人間の足元。
木陰から若い男が姿を現した。
黒髪の間からギラギラとした赤い瞳がノワを捉える。見知った不気味な美形だ。
「はぁ?お前、こんなとこで···············なんだその格好?」
どうやら先程の言葉は、猫ではなく彼が発したものらしい。
「なぁんだ、びっくりした·····」
安堵して呟く。
いや、そうではない。ノワはいるはずのない人物を指さした。
「なんでリダルが、ここに?!?!」
「·····相変わらずうるせぇ·····」
彼は呆れたように溜息をつき、髪をかきあげた。
なんだか疲れているようにも見える。
リダルはドレス姿のノワをじろりと一瞥し、手にしていたウィッグを投げてよこした。
「毛ぇ落としてんぞ、変態」
「ありがとう·····───って!」
自然な空気に流されそうになるが、なんだって彼はここにいるのだろうか。
まさか招待客なわけでもあるまいし、こんな木陰に身を隠しているなんて怪しすぎる。
「今度は女装して侵入かよ?まじでやべぇな、お前」
「なっ?!」
意味わかんねぇ、と呟く横顔は息を飲むほど男前だ。
が、先程の言葉は聞き捨てならない。
「やりたくてやってるんじゃない!」
「じゃあ何なんだよ?」
気だるげな声が問いかける。
ノワはええとと口ごもった。
「い、生きる為っていうか」
「はぁ?」
リダルはかわいた笑い声をもらす。
彼の服装は、ただの正装とは違っていた。
どこぞの王子様のような格好だ。
肩から片腹にかけては鎧に覆われている。
リダルがこちらへ近づく。真っ赤な裏地を覗かせるマントがなびいた。
ノワは思わず彼をジロジロと眺めた。
あまりに似合っている。
(·····じゃ、なくて!!)
「·····警備の仕事?」
「馬鹿にしてんのか?」
「いやだって、そういう格好だし·····」
コスプレという概念はこの世界にはないようだし、考えられるならそのくらいだ。
改めて見ると、服装は警備よりもずっと立派なものに見えた。
何やら光ったブローチは、そこらの宝石よりも重みがありそうだった。
「女装して侵入って」
掠れた低音が、呟くように言う。
「あいつが知ったら、ドン引きだろうな」
「あいつ」が指す人物は、言うまでもない。
ノワは苦い顔をした。
「こ、このことは·····」
「なんだよ、次は恋人にでもなりたいってか?」
秘密にして、と言い切る前に、リダルが意地悪く笑う。
1度目の口止めでは友達、この前が親友、そして今回。
しかも彼には「一つだけなんでも言うことを聞く」という約束までしてしまっているのだ。
ううんと眉根を寄せるノワ。
人間離れした美形が、軽蔑するように歪んだ。
「冗談に決まってんだろ」
こっちから願い下げだっつうの、と吐き捨てた低い声にカチンとする。
流れてきた2曲目のワルツに、ノワははっとして後ろを振り返った。
キースと別れたのは随分前だ。
今頃、彼は話を終え、自分を探しているかもしれない。
手に持ったウィッグを頭に取り付けながら城の中へと戻ろうとし、慌ててリダルを振り返った。
「そ、そういうことだから、絶対に誰にも言わないように!」
自分でも中々情けない捨て台詞だ。
悔しさに唇をかみ締め、再びなれないヒールで走り出す。
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