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《24》成功
しおりを挟む目の前を塞いでいたくもりガラスがなくなるような気分だ。
「お前なら出来る」
ノワは唇を引き結んだ。
彼の期待に応えたい。
「ここにいたのか」
ユージーンが扉から顔をのぞかせる。
2人はバルコニーを後にした。
もちは予想通り貴賓たちの関心を強く引いた。
結果、ノワの作品は、味、食感共に高く評価され、食べ物の部門で最優秀賞を受賞。スピーチでフィアン、演奏でユージーン、贈り物ではロイドがそれぞれ良成績を残し、学園は最優秀賞を総なめする形となった。
授賞式では一身に羨望の眼差しを浴びた。
目が合ったロイドはノワを称えるように笑んだ。普段厳しい彼が認めてくれた証だ。
ノワは初めて、彼らと打ち解けた気がした。
閉会後、ノワはフィアンを探した。
励ましてくれたことへの礼を言いたかった。
彼は、既に沢山の人々に囲まれてしまっていた。
遠目からフィアンを眺める。
どの角度から見ても、胸が締め付けられるほど格好いい。
じっと見つめていると目が合った。
心臓が跳ねる。
が、視線はすぐに外された。
(せっかく目が合ったのに·····)
フィアンは待機していた従者に何やら耳打ちされ、人だかりから離れてゆく。ついに、彼の姿は従者と共に廊下に消えてしまった。
何かあったのだろうか。
ノワは残念に思いながらも、食べ物を頬張る手は止めなかった。
一通りのない廊下に出ると、フィアンは秘書官を振り返った。
「話とは?」
「はい、皇子殿下」
中年の男は恭しく礼をする。
「たった今、第二皇子様が戦からご帰還なさったと報告がありました」
フィアンの義弟であり帝国の第二皇子イアードは、今から約1年前、激しい戦場へ送られた。
彼の出征を皇紀を初めとした宮廷の者は皆喜んだ。
勝ち目はゼロに限りなく近い負け戦だ。第二皇子は、死地へ追いやられたということだった。
しかし彼は1年の時を経て、勝利を手に帰ってきた。
「報告が来たのはたった今ですが」
秘書官は言いにくそうに連絡を続けた。
「第二皇子様は、少なくとも1ヶ月以上前には、お一人で帰還なされていたようです」
帰還式の日程は決まり次第報告されるという。
「祝品は適当に選んでおいてくれ」
「かしこまりました」
フィアンは秘書官に言いつけ、踵を返す。
会場での仕事が残っている。
こちらを見つめていた後輩の相手もしてやらなければいけない。
ふと、最後に見た義弟を思い出した。
「殿下?」
立ち止まったフィアンへ従者が呼びかける。
無感情な唇が微量に持ち上がる。
それは、嘲るような笑みにも見えた。
時刻は0時を回ったころ。
ノワは、パチリと目を覚ました。
学園は夏季休暇中。
殆どの生徒が実家に帰省し、ルームメイトのキースも2日前から寮室を開けている。
おかげで、ノワは一人の部屋で悠々と過ごせる───訳でもなかった。
パーティーが終わり、一安心したのも束の間。今夜は重大な任務を遂行しなければならない。
ユージーン公爵邸にやってくる叔父の刺客を食い止めるのだ。
美しい碧眼を守るため、ノワは使命感に燃えていた。
簡単な服に着替え、部屋から顔を出す。
廊下はしんと静まり返っていた。
ローブを羽織り、無人の寮を抜ける。
広い学園の敷地を抜け出し街灯の下を早歩きで進むと、馬車の停留所はすぐそこだった。
初老の男性が運転席で船を漕いでいた。
申し訳なさを感じつつ声をかける。初め嫌そうな顔をした相手は、金貨を見せた途端に愛想が良くなった。厳禁な事だが、金にものを言わせられる地位は悪くない。
「ハッ!」
掛け声を合図に、馬車はゆっくりとスピードを上げてゆく。
ノワはぼんやりと窓の向こうを眺めた。
ここ2ヶ月は、嵐のように忙しなく過ぎ去っていった。
なぜ転生したのか、元の身体はどうなってしまったのか──疑問は膨らむばかりだ。
ふと、前世の頃を思い出した。
親のレールに乗っていた学生時代。卒業後は企業に就職をして、目標もなく働いた。
ただ同じ日々を繰り返し、老いてゆくのだろうと、信じて疑わなかった。
不思議なものだ。
今、破裂しそうなほど胸が高鳴っているのは、他人の身体のはずだ。
それなのに、春川の頃よりも、生きていると感じる。
死亡エンドばかりの悪役令息だが、この転生はチャンスだと思っている。
今世こそ自分の人生を歩みたい。
無限の可能性があるのだ。
何よりも、この世界には、大好きなフィアンがいる。
少し邪な思い出を辿っていると、脳裏に1人の青年が甦った。
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