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《21》悪役だけど虐められっ子

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リダル・ジルレイ・クワダムス。

クワダムス家の次男で、入学を機に帝都へ社交界デビューをした青年。
長男は怠け者で、名ばかりの跡継ぎ。次男のリダルは病弱なことから長らく療養生活を送っていたという。

ただの辺境の男爵家だ。

早速調べさせた資料を思い出しながら、キースは考えるように視線を伏せた。

この地方の者は、褐色の肌に赤茶の髪を持って生まれることがほとんどだ。

クワダムス家も例外でははいはずだが、リダルの肌は血色の無い白。
病弱な身体のせいだろうか。否、見た限り彼の身体は病弱どころか鍛え上げられたそれだ。

不自然なのはそれだけでは無い。
口調こそ荒いものの、リダルは長年帝都に住んでいるような完璧なイントネーションを発していた。

美しい標準語を話せる者は貴族でも数少ない。
標準語を習うための教師を雇うなら、他とは桁違いの額になるだろう。


"どういう状況かなんて、聞かなくてもわかんだろ"


ギラギラと冷たく光る赤い瞳。どこかで見た事のあるような、鋭い横顔。

なんにせよ、ノワに絡んでくるリダルは、キースにとってなんとなく面白くない存在だった。

───ふと隣から視線を感じた。


「どうかしたのかい?」


机に頬杖をついたノワが、授業もそっちのけでこちらを睨みつけている。

声をかけると、眉根が不可解そうにひそめられる。
キースはふっと微笑んだ。


「また悩ましげな顔をして···キスのおねだりかな」


困るなぁとわざとらしく首を振る。

ノワは可愛らしい顔に似合わず、大きな舌打ちを落とした。


「キースって悩みとかなさそうだよね」


「おや、悩み事かい?」


「うん。僕は誰かさんと違って脳内お花畑じゃないから」


ふん、と鼻を鳴らして言い返す様は、本当に見た目に似合わず生意気だ。そして、それがかえっていじらしい。


「大変だよノワくん。小鳥のように小さな頭で悩み事なんかを抱えたら、脳ミソが爆発してしまうかも」


心配だ、と、両手を広げる。
ノワは暫く唖然として、諦めたようにため息をついた。

彼と過ごす時間は、このむさ苦しい学園生活の中で唯一悪く無い時間だ。
関われば関わるほど興味を惹かれる。不思議な事だった。


「僕で良ければ相談に乗ろうか」


「·····」


口に出さずとも、ノワの表情からは「お断りだ」という返答が見て取れる。

拒絶されれば更に構いたくなるが、これ以上は引っかかれそうだ。ノワの頭に猫耳が生えて見えた。


ノワの言葉を脳内で呟く。

悩みほどでもない。が、ノワと絡んでいる人間が気になるなんて、今までの自分ならば到底ありえない事だった。

関係を結んだ女が誰とどんな関わりがあるのかすら興味がなかったのに、今自分が気になっているのは他でもない隣の男。
可笑しくてたまらない。キースはふっと息をついた。










(何笑ってんだろ、このヒト·····)


一方ノワは、シラケた気分でキースから視線を外した。

ユージーンを屋敷から遠ざける計画は失敗に終わった。そもそも、彼を屋敷から離した所で、ユージーン公爵邸に被害が及ぶことに変わりは無い。

一体どうすれば良いのだろう。


頭を抱えているうちに終業のチャイムが鳴る。
ノワは席を立ち上がった。


放課後は剣練部がある。早めに行って、ロイドに意欲を見せつけるチャンスだ。

早足に廊下を進んでいると、ずしり、と、肩に重みが加わった。


「ンな急いでどこ行くんだよ?便所か?」


「·····」


ノワはげんなりしながら相手を見上げた。


「剣練部!重いから手どかして」

「俺はこの方が楽だから却下」


いじめっ子に絡まれる生徒の気分だ。

リダルを睨み付ける。どこから見ても美しい顔立ちが、余計むかつく。


「つーか、俺も入団したから」

「え?」


「剣練部」

「はぁあ?!」

「うるせぇな、耳元で叫ぶな」


冗談じゃない。ノワは、お前が離れろと叫んだ。

剣練部は攻略対象のロイドとコンタクトを取る場なのに。


「なんでよりによって、剣練部に····」

「気分」


その"気分"のせいでこっちは致死率が上がるんだ。発狂したいが、他人からしたらこっちの方がキチガイに見えてしまうだろう。

ふといいことを思いついた。


「リダル、僕とゲームしない?」

「あ?ゲーム?」 


食いついた。ノワは満面の笑みで頷く。


「そう!剣練部に入るんでしょ?なら一対一で勝負しよう!勝った方が負けた方のお願いを何でも1個聞くって賭けて」


ノワの剣の腕前は、1学年の中ではトップクラスだ。

見るからに不真面目なリダルが、剣術を磨いてきたとは思えない。 リダルを負かせて、必要以上に自分にかかわらない約束をさせよう。



ノワは勝ちを確信していた。


「なんでも?」


リダルは意地の悪い笑みを浮かべた。


「いいぜ」


「決まり!じゃ、早速今から」


憂鬱は吹き飛んだ。

リダルの腕を掴み、先を歩く。


「俺と勝負できんのがそんなに嬉しいのかよ?」


「うん!」


今日一の返事をする。
何が楽しいのか、リダルはノワの笑みににっこりと笑い返す。目の下の隈を除けば、ため息が漏れるほど完璧な笑顔だろう。


















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