須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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クリスマスデート アイスホテルと船の博物館

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「次はこちらに行ってみませんか? パンフレットを見た時から気になっていたんですよ。」

「冬場にはどうなんだろって思ったけれど、それもまた赴きなのかもね。」


 僕らが次なる目的地に選んだのは「ユッカスヤルビのアイスホテル」。 パンフレットにも載っているけれど、このアイスホテルは冬季限定で造られており、宿泊することは出来ないが、そのホテルの内装を体験出来ると言うものだ。 僕はアイスホテルということで、氷で外壁を囲っているのかと思ってたけれど、よくよく見ると、どちらかといえばかまくらに近い造りになっていた。


「やっぱりというか外の寒さとはまた別の寒さが感じられるね。」

「そうですね。 でもこう言った体験は出来ないので、貴重な体験なのは間違いないですよ。 おや?」


 安見さんがなにかを発見したようで、そちらを見ると、聖堂で会ったように一緒に今回のイベントに参加しているカップルの人と会った。 今度はブライダル体験を次のデートにしようとしているカップルだった。


「やぁ、君達もここに来たのかい?」

「すごいよねぇ。 氷で壁も床も造られているんだよ。」


 そう答える向こうのカップル。 男性の方は茶色のツーブロックで清楚感のある青年。 女性の方は髪を後ろで団子を作っている、こちらも清楚感漂う女性だった。


「中も凄かったよね。」

「そうなんですか?」

「うんうん! 是非見てくるといいよ! ビックリするから!」

「ありがとうございます。」


 そう言って僕らはそのカップルと入れ替りで中に入ってみると、毛布のベットに毛皮で覆った椅子と机が配置されていて、机の上には雰囲気に合わせて、ランタンが置かれていて、まさしくアイスホテルに相応しい造りになっていた。


「それにしても寒いね。 冷気が体にひしひしと伝わってくるよ。」

「あまり厚着をしていない事もあるのでしょうがここまでのものとは思わなかったです。」

「せっかく布団もあるから入ってみない? こういった場所で入るのも中々ない体験だと思うし。」

「そうですね。 使用は自由とかかれていますし・・・あ、凄いですよこの布団。 熊の毛皮を使用してます。」


 そんな会話をしながらいそいそと僕らはどちらが言うまでもなく布団の中に入っていく。 周りがあまりにも寒いからか、奥へ奥へ入っていくのに時間はかからず、我先にと入っていたら・・・


「・・・あっ。」


 布団の中で安見さんの手と触れた。 そして改めて気付かされた。 僕らは今、1つの布団に2人で入っていることに。 それに気が付いた時、僕の体温はかぁっと上がる。 もちろん布団に入っているから暖かいのは確かなのだが、それだけじゃない熱が僕の全身に行き渡る。


 それは安見さんも少なからず同じなようで、風邪でも引いているのではないかと思うくらいに顔が真っ赤になっていた。


「僕らもその中に入ったとき、同じように感じ取ったよ。」

「アイスホテルなのに体が火照るってなんだか面白くない?」

「「うわぁ!」」


 なんだか変な空気になりかけたところで先程のカップルが中を見てきていた。 危うくなにかいけない事をしてしまいそうになっていた事に気が付き、すぐに距離を取った。 安見さんも同じようで今はまともに顔も見れない。


「えっと・・・安見さん・・・今のは・・・」

「・・・・・・・・・次に行きましょう。 ここにいては体に毒です。」


 安見さんの言葉に「それもそうだね」と一言だけ言って、僕らはもう1つのカップルと共に、アイスホテルを去った。


 お互い若干気まずい空気の中向かったのは船の博物館と呼ばれている「ヴァーサ号博物館」だった。 アイスホテルでの一件のせいでまともに顔を見れないけれど、とりあえず行き先だけは決めたといった具合だ。


 ヴァーサ号博物館 沈没船である「ヴァーサ号」を原型を留めたまま引き上げられて、そのまま博物館の展示物として寄贈されている。 当然ここにあるのは本物ではなく、忠実に再現した模倣品ではあるけれど、そのクオリティは本家スウェーデンのヴァーサ号と見比べてもどちらが本物か分からないほどらしい。 日本の技術は世界を凌駕する。


 そして博物館ということで、歴史も当然載っている。 どうして沈没してしまったのか、どうやって引き上げられたのか、そんな歴史が載っていた。


「あ、このヴァーサ号。 乗ることが出来るそうですよ?」

「ほんと? そこは本物とは違うのかな? 向こうでも乗れたり・・・そんなわけないよね。 普通は展示物だもの。」


 そう言いつつも船に乗ること、しかもヴァーサ号に乗れることに関して内心ワクワクしている。 こんな体験、本物ではないとはいえ出来ることではない。


 早速僕と安見さんは船に乗るための階段を上がり、船内に入る。 実際のヴァーサ号は船内にはお土産などが販売されているらしいのだが、そこまでのこだわりはもてなかったようだ。


 甲板に上がると、なんだか甲高い声が聞こえてくる。


「ほら、先端に立ったって怒られないだろ? 正確な展示物じゃないんだ。 許容範囲ならなんだって出来るって事さ!」

「あははははは! ここで愛を叫べそう!」


 ここにも参加者のカップルがいた。 赤のツバ付き帽子を被った一見不良に見える男性と赤茶色でふんわりカールショートの女性が、倒れないように支えあいながら船の先端に立っていた。 映画で良く見るワンシーンだが、その後の結末は結果的に沈没している。 不謹慎とは思わないけれど、どうなんだろうと思ってしまう。


 あの人たちの事なので、おそらくヒントはもう取ってあるだろうし、なにより今の雰囲気は邪魔できない。 なので見張り番の所に行くことにした。


 見張り番の所には梯子があり、そこから上に登れるようだ。 景色がいいので、よく見えることだろう。 早速と思い、僕は梯子を上がる。 そして最上部の所について辺りを見渡す。 そこは今まで下からしか見えなかった「ランド・オブ・スウェーデン」が一望できる場所だった。


 周りを見ていると、視界の端に双眼鏡が見えたので覗くと、今度は細部までしっかりと見える仕組みになっていた。


「安見さん凄いよ! ここはいい景色・・・安見さん?」


 我を忘れていたが、そういえば安見さんが一緒にいないことに今から気が付いたのと、安見さんは高所恐怖症だったことを同時に思い出した。 これでは一緒に景色を眺める事が出来ないや。 そう思ったとき


『光輝君。 聞こえますか?』


 安見さんの声が聞こえた。 どこだと見渡すと、ラッパのようなものが見えた。 どうやらパイプ式で上と下との連絡を取るものらしい。


「聞こえるよ。 ごめん、安見さんが高所恐怖症なのを忘れてたよ。」

『大丈夫ですよ。 光輝君が楽しそうだったので。』


 そんなにだったのかな? でもそこで引き留めなかったのは僕の事を思っての事だろう。


「安見さん。」


 だから僕は


「僕の事を気に掛けてくれる、そんな安見さんが好きだよ。」


 今の気持ちも含めて、想いを伝えることにした。 それを伝え終えたので、僕は満足げに見張り番の高台を降りる。 甲板に戻ってきたときに、下で待っていた安見さんに頭を当てられ、左手で軽く叩かれてそして、


「・・・あれはいくらなんでも反則です。」


 完全に顔を真っ赤にしている安見さんに軽く怒られてしまうのだった。

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